第1012話 ■ソノシート

 昔、雑誌の付録によくソノシートが付いていた。ソノシートが何であるかを説明する必要はなかろう。分かんなかったら、調べるか、周りの大人に聞いてくれ。その雑誌というのは「よいこ」、「幼稚園」、「小学○年生」といった小学館の幼児用教育雑誌を指している。薄いペラペラのその盤には怪獣の鳴き声や乗り物の音、例えばSLなどの音が納められていたような。アニメ主題歌もあった、あった。そして、当時はソノシート付きの絵本というのも本屋で売られていた。

 雑誌の付録の場合は何のためらいもなく、あの円盤が組み立て付録の一部と一緒にビニール袋にそのまま入れられていた。CD付きの雑誌では考えられないことだ。そんなもんだから、当然子供の扱いもぞんざいで、おもちゃ箱にそのまましまったりして、折り目がついてしまうこともしばしば。3日と綺麗な状態ではあり得ない。

 当時、アイドル歌手のブロマイドとソノシートが合体したようなものが登場した。写真が印刷された厚紙にソノシートが貼り付けられており、流れてくるのは相手の歌ではなく、相手の「語り」である。「やあ、また会えたね、元気?。僕は最近忙しくてさ…」なんて、まるで親しい友達か何かのように会話の一方として話し掛けてきちゃう。「やあ、また会えたね」とか「元気?」って、掛けるたびに聞かれてもなあ~。うちの姉ちゃん、西城秀樹のを持っていた。

 このアイドルソノシートは厚紙に貼られているから良いが、普通のペラペラのソノシートは我が家では聞くことができなかった。何かと仕事の付き合いで次々と家電品を買ってしまう(貧乏なのに)我が家では、立派なステレオがあった。レコードが最後の残り溝まで行くと、自動的にアームが元の位置に戻って、ターンテーブルが止まる機能が付いていて、このため、針圧に関してはかなりデリケートなようで、ソノシートは薄すぎて掛ける事ができなかった。

 よって、ソノシートはもっぱら友達の家で、チープなレコードプレーヤーで聞いていた。針圧もへったくれもなく、アームの自重を針の一点のみで支えているといった感じの構造である。それでも、ふとしたことで針が飛ぶこともあったので、アームの針の上部分に重りとして10円玉なんかをテープで貼り付けたりもした。まさにアナログの世界だ。

 基本的にソノシートの大きさはシングルレコード盤と同じで、間違っても、あの薄いペラペラ状でLPサイズはなかっただろう。中心部には小さい穴しか開いていない。ドーナツ盤と言われるシングルレコードはジュークボックスに入れた際のことを考えて、大きな穴が空けられているが、ソノシートをジュークボックスに入れるはずもなかろうから、小さい穴で十分。穴がでかいと、強度にも影響が出てしまう。蛇足ながら、ソノシートはその薄さ故、片面しかない。

 逆に小さいソノシートというのも存在していて、8センチCDくらいのものを当時見たことがある。これはレコードプレーヤーで再生することを目的として作ったわけではなく(プレーヤーで実際に再生できるかどうかは知らない)、喋る人形の音声データ用だった。人形の(たぶん)背中だかを開けてこのソノシートを格納する。そしてボディに配されたボタンを押すと、そのソノシートからの音声を発する。あいにくそれは女の子用の人形であるため、どんな台詞を喋っていたかは覚えていないが、服を脱がさないとソノシートの出し入れができなかったことは幼心に衝撃的だったのか、結構はっきり記憶している。確か、乳首はなかった。

(秀)