第1085話 ■なぎさホテルにて

 私が最近好きな作家は重松清である。ほとんどは文庫本で読むようにしているが、目にした書評が気になってハードカバーも買うほどである。これは私にしては相当珍しいことだ。「流星ワゴン」と「トワイライト」。これは文庫本にまだなっていないが、それを待つまでもなく、買って読んでよかったと思っている。

 さて、今日は彼が直木賞を取った「ビタミンF」におさめられている「なぎさホテルにて」という短編について書きたい。「ビタミンF」自体が短編小説集でこの「なぎさホテルにて」も短い話である。つい最近文庫本になって、それから読んだ。

 なぎさホテルとは思い出のホテルである。主人公が学生の頃、当時の彼女と一緒にやってきたことがある。丁度その日は彼の誕生日で、このホテルの趣向として誕生日に宿泊したお客様が書いた手紙をホテルがしばらくの間預かっていて、数年後にタイムカプセルを開いたように手紙を送ってくれるサービスをやっていた。そのときに彼女が未来の彼宛に書いた手紙が数日前彼の元に届いた。

 その手紙の中に記されていた、「二人は結婚しているのだろうか?」という質問の答はノーだ。彼は別の女性と結婚し、子供もいて家庭があるが、夫婦仲は最悪。離婚寸前の状態である(重松清の小説にはこの手の設定が多い)。一方、かつての彼女が今はどういう状態にあるのか彼は知らない。そんな中、かつての彼女からの手紙に再会の期待を託し、彼は家族と一緒になぎさホテルにやって来た。

 果たして彼はかつての彼女と再会できるのか?。彼の夫婦仲はその後どうなるのか?。今の夫婦仲が悪いからというわけではなかろうが、男はこの手の話に期待を持ってしまう。きっと読んだあとの感想は男性と女性とでは異なっていると思う。なぎさホテルを舞台にしたタイムカプセル仕掛けの手紙とそれにまつわる男女の恋愛心理の差がおもしろい。

(秀)