第1116話 ■引出しと人生

 会社の机の引出しの中が資料であふれてしまい、他にやらなければならないことがありながらも、探し物もあり、まずはこっちを片付けなければならなくなった。なるべくこんなことにならないように保管が不要な資料は即時に捨てるようにしてきたが、やはりいずれかのタイミングで見直しをしなければならなくなる。

 引出しから、「これは!?」と思う資料の束を取り出し、このまま持っておく必要があるかどうかを判断する。過去1年以内に必要がなかった資料は今後もまず必要とされることはないのだろうが、なかなか踏ん切りがつかないものがあり、それだからずっと生き残っている資料の方が多かった。本来は不要なものを選び出すより、一旦全部を取り出して、必要なものだけを引き出しに戻すくらいのやり方でないと徹底できそうにない。

 しかし、そこまでまとまった時間は取れない。取り急ぎ、不要な物を捨て、「ひょっとして…」と思うものはスキャナで読み取り、PDFファイルとしてパソコンに保管する事にした。そして元の紙はポイ。過去のしがらみまで捨てるようで気持ち良い。

 結局捨てきれなかった資料が今後役立つことはないだろう。私が別部署に異動になったからといって、誰かに引き継ぐ必要もない資料だったりする。「そんなものならさっさと捨ててしまおう」、と思ってみてもなかなかそうはいかない。ちょっとした思い入れのあるものだったりする。人生ってそんなもの。他人に引き渡せるものなんかほんの少ししかなく、そんなものを大事に抱えて年を取っていく。

 これからは毎日会社を出る前に10分間、資料を整理する時間を取ろうと思った。

(秀)