第122話 ■お宝の値段

 読み終えた本を古本屋に持って行くと、文庫本は買取り価格が一冊当たり10円程度でしかない。新しかろうが、人気の本だろうが、本が厚かろうが薄かろうがお構いなく、一律である。売価を見ると定価の半額というのが相場のようだ。仮に10円で仕入れたものを200円で売るとすると、190円の荒利、荒利率は実に95パーセントである。しかし、一方でその店が一日に幾ら稼ぐかという観点で利益を計算すると、あまり儲かる商売ではなさそうだ。いくら仕入れが安くても、たとえ仕入れがタダであっても、人件費や家賃といった固定費に見合った日々の売上がなければ、儲からないわけだ。

 所変わって、下北沢。この街はまさにおもちゃ箱のような街に思える。芝居小屋がたくさんあり、そして、懐かしいおもちゃやノベルティものを売る店も集まっている。お宝ブームやリバイバルのテレビ番組の増加でこのような店が最近はちょっと賑わっているようだ。何度かこのような店に足を運んだりしたが、付いている値札にはいつも驚かされる。小さなソフビ人形にさえ数千円から万単位の値段が、超合金やジャンボマシンダーに至っては10万円では買えないものがズラリと並んでいる。店を棚卸ししたらいったいいくらになるだろうか、と思ったりするが、そもそもの値付けの根拠が曖昧なため、正確な金額など出るはずもないだろう。

 さて、懐かしいおもちゃが何故こうも高いのかという理由であるが、これは売り手の都合のような気がする。荒利率も確かに重要であるが、店を経営していくために日々必要な目標額を想定して、それにを満たすためのバランスを考えての値付けであろう。需要と供給のバランスの前に日々店を経営していかなければ、そのような市場も成り立たない。そうそう客が来て商品を買う店ではないため、単価が高くなってしまうのだ。それに、お宝ブームなどが加担したというところか。だから同じものをあなたが持っていたにしても、それは店の経営上弾き出された値段でしかなく、お宝の価値そのものではない。そのような店に並んでいるお宝も買い求めた瞬間からそのものの価値に戻ってしまう。それが分かった上で買っているのならいっこうに構わないが、こういうものを買う人に限って、「これ10万円なんだぞ」と言ったりする。「店の人が10万円と値段を付けてたけど、本当は1万円くらいの価値かもしれないぞ」というのが正しいと思う。