第127話 ■電波時計

 書くネタが尽きたので、今回は自慢話でお茶を濁すことにしよう。’92年頃だったと思うが、ある情報系雑誌(DIMEとかMONOマガジンとかのことね)でその腕時計を見た。「欲しい!」。けど値段は10万円。すぐに買える金額でない。雑誌には「10万年に1秒」の誤差と紹介されている。別に単独でそれほどクォーツの精度が高いわけでなく、日本の標準時を刻む時計と電波で同期を取っているという仕掛けである。放送局の時計と同じ仕組みであるが、民生用では世界初、しかも腕時計という代物である。かくして、瞬間的に「時計の性能は正確さだ」、と強く思ったわけだが、特に時計コレクターというわけでもないため、目的の時計を探し回るでもなく、雑誌も処分してしまったらしく、しばらくその時計のことは忘れていた。

 しかし不思議なことにそれから4年ばかりして、社内の人事異動で二人の時計好きが私の前に現れた。二人というのが重要である。ある日、その二人がそれぞれの腕時計をネタに会話を始めたのである。何とか会話に加わりたい自分は、あの電波時計の話を二人に投げてみた。すると、その一方が「ちょっと前のウォッチ・ア・ゴーゴーの増刊号に出てましたよ」と言ってきた。翌日持って来てくれた雑誌を見ると、その時計のデッドストックをかつての定価で販売している事が分かった。ついでにかつて発売されたのは国内限定2,000本で、博覧会用に作ったがコストの面で量産されなかった事も分かった。

 雑誌に紹介されているショップに問い合わせると在庫僅少とのことなので、もちろん、即(会社を抜け出して)買いに走った。もちろんカードで。しかしこの衝動買いが家人の怒りに触れ、ようやくローンの支払いが終わったライカM6(入手金額:約30万円、レンズ込み)を手放す羽目になった。 (つづく)

※ライカM6というのはカメラです。