第1290話 ■ウォークマン

 ソニーのウォークマンが世に出たとき、私は中学一年生だった。画期的だったこのヘッドフォン型カセットテーププレーヤーを音楽好きの友人が買っていて、見せてもらった。ちょっとコンパクトな辞書みたいなスタイルだった。どこでも音楽が、しかも歩きながらでも、という部分に大いに魅力を感じた。そしてそれからしばらくして、ウォークマン2が世に出る。今度は思いっきりコンパクトになり、デザインも随分ファッショナブルになった。クラスメイトが買ったものを見せてもらい。初代ではそれほどではなかったが、この2代目を見て、俄然欲しくなってしまった。けど、高くて買えない。

 やがて他社も同様のヘッドフォン型カセットテーププレーヤーを出した頃、私は高校生になった。貸しレコード屋に深夜ラジオ放送といった文化に接するようになるし、芸能界はアイドル全盛の時代になる。客観的に見れば大きな需要が見られる時期だろうが、私は田舎住まいのため、周りにウォークマンをして歩いていたり、電車に乗っている人を見掛ける事などまずない。なぜなら、電車に乗って通学したり、通勤したりする人が極めて少なく、我々の世代のほとんどは自転車で通学しているため、ウォークマンを外で使う機会などほとんどないのだ。

 この頃のウォークマンは非常にアイデアに富み、いろいろな製品が世に出された。カセットケース並みのコンパクトなウォークマン、防水のウォークマン、ダブルカセットのウォークマン(ダビングができた)、最高スペックのウォークマンプロフェッショナル。機能だけでなく、デザインも良かった。色使いも。

 そんな田舎暮らしはその後、大学生になっても続いたが、その頃になってようやく私はウォークマンを購入した。オートリバース対応機で値段は1万5千円くらいだったと思う。電源は充電池ではなく乾電池のタイプだった。しかし、買ってはみたものの、自転車が主たる移動手段だから結局あまり使用する機会はなかった。ただ持っているだけの満足感。

 会社に入ってからは電車通勤となって、ウォークマンを買うにふさわしい環境となったが、機能やコンパクトさにおいて私の要求を満たすウォークマンが無かったため、他社のヘッドフォン型カセットテーププレーヤーを何台か買い換えながら使った。そして再びウォークマンを手にしたのはMDウォークマンだった。他社に先駆けている分だけ、コンパクトだった。’96年の年末のことである。

 そしてまた最近、ウォークマンを買った。USBメモリーに似たコンパクトな商品だ。デファクトスタンダードであるiPodではなく、ウォークマンにしたのはいずれこのウォークマンに連動するソニーのコンポを買いたいということと、アップルよりもソニーが好きという理由による。パソコンと連動した音楽データの管理も扱いやすいし、何しろコンパクトであって、大変気になっている。しかし、クリアな音と引き換えに何だか薄っぺらな音に聞こえてしまうのは、扱いやすさによって、有り難さが薄れてしまったせいだろうか?。それとも耳が肥えたのか?、いやいや単なる老化か?。

(秀)