第1326話 ■しゃべれども しゃべれども

 TOKIOの国分太一が若手落語家を演じる映画の話。彼が演じる落語家は真打の手前の二ツ目と呼ばれる階級に位置する「今昔亭三つ葉」という役どころである。肝心の落語において、壁にぶち当たってちょっと停滞気味の状態にある。そこに、自分の感情をうまく表現できない女性として香里奈が、そして大阪から東京に転校してきてクラスにうまく馴染めない小学生と、現役を引退してうまく解説ができない元プロ野球選手が絡んでくる。

 本当は自分の芸を磨くことに注力すべきなのだろうが、行きがかり上、三つ葉は彼らを相手に自宅で落語教室を始めることになる。最初は落語のどこが面白いのか、と言っていた少年も枝雀のビデオを見て、その面白さに惹かれてしまう。クラスに馴染めないのは関西弁のせいだと家族が判断し、落語で標準語を学ばせようと仕向けたが、上方落語の枝雀を見て、その関西弁がゆえに惹かれていく。彼はそのまま関西弁で「まんじゅう怖い」をマスターしていく。この子役が実にうまい。

 一方、主演女優の香里奈は原作と設定が多少変わっていることもあって、役どころが分かりにくい。どういうわけで自分の感情をうまく表現できなくなったのかが表現されていなかった。残念。原作から判断するに、黒猫のイメージのこの配役は水川(旧:氷川)あさみの方が良かったと私は思っている。

 思いを寄せる人に告白できないまま、相手が結婚することを聞かされ、ますます停滞状況に包まれる三つ葉。ようやく、自分の教え子の成長を糧に落語の道へと注力していく。目指すは一門会。彼のそこでの演目は「火焔太鼓」。それにしても国分太一の落語は実に見事だった。それに師匠役の伊東四朗の落語もまるで本物のようだった。

 火焔太鼓という落語については以前から知っていたが、改めて調べてみると故五代目古今亭志ん生が現在の形を完成させたものだと分かった。現在でもCDとして彼の肉声は残っている。最初はそれを求めて名人芸を堪能してみようかと思ったが、落語は聴くだけでなく、その身振り手振りを見て全体をなすものだと考え直した。国分や伊東の演技は語りの口調だけでなく、動作においても実に見事だった。

 この映画を見て、その後実際に寄席に足を運んで生で落語を見てみた。詳しくは後日。実に面白い映画だった。

(秀)