第169話 ■デマメールと忠臣蔵

 ところでみなさん、ウイルス対策は万全だろうか?。風邪の心配ではない。もちろんコンピュータウイルスの話である。コンピュータウイルスと言ってもあまり私たちは驚かなくなってきたようだが、その危機が私たちの周りから消えてしまったわけではなく、ウイルスの数は日に日に増大している。折しも、新種の強力なウイルスが見つかったり、2000年の1月1日に発病するウイルスが出るだろうと戦々恐々。2000年問題の修正プログラムと偽って出回るものがありそうだとの噂もある。コンピュータウイルスはお互いが被害者と加害者になる可能性を持っている。人に感染させておいて何だが、その人は「自分も被害者だ」と言い張って、その罪のなすりあいを将棋倒しで遡って行くしかない。

 その一方で、2000年へのカウントダウンを前にして、またもやウイルス関連のデマメールが出回っているらしい。時期が時期なだけに便乗犯であるとすれば悪質である。「このようなメッセージのメールが来たら開封せずに直ちに捨てて下さい」といった書き出しで始まり、具体的なメッセージの特徴を記したメールである。IBMの技術者やAOLの技術者が発見者などとして登場し、それらしく装っている。ただこのメールに記されているウイルスメールを見た人はまずいない。なぜならこの騒ぎはデマだからだ。このチェーンメールの唯一の真実は、「このウイルスに対するワクチンはまだありません」という部分のみ。ウイルスそのものが存在しないのでワクチンも存在しないのである。

 ただ、最新のウイルス関連の情報は各自で確認し、自衛を行うに越しことはない。デマメールの間隙を突いて、本物のウイルスがばらまかれる可能性は誰にも否定できない。さて、時は元禄15年。日比谷桜田の上杉家上屋敷の門を叩く町人らしき人物あり。「上杉様、上杉様。大変でございます。吉良様のお屋敷に赤穂浪士が討ち入りました」。上杉家の当主とは、吉良上野介の長男で、上杉家の養子となった上杉綱憲である。実父の一大事と慌てて家臣を引き連れ、本所の吉良邸に出向くも、あたりは全くの平穏。どうやら赤穂浪士の作戦の様だ。こんな騒ぎが何度となく繰り返され、ついに12月14日を迎えた。当日(正しくは15日)、討ち入りの第一報は本所の豆腐屋が上杉家上屋敷に討ち入りの旨を伝えに来たが、以前の騒ぎもあり、取り合って貰えない。つづいて、吉良家門番の丸山清右衛門がたどり着き、上杉家は騒然となった。しかし、時既に遅く、綱憲は為す術はない(綱憲が駆けつけなかった別の理由もあるが)。

 「ウイルスでございます。ウイルスでございます」。デマの間は良いが、忠臣蔵の時期となるごとに、こんなエピソードを思い出したりする。お気を付けあれ。