第170話 ■思い出の校舎

 私が通った中学校は「城東中」という名前であったが、「ジョウトウ」とは名ばかりで、市内でも1、2を争うおんぼろ校舎の学校で、名前とあいまって他の学校の生徒からも笑いのネタにされていた。当時は全てが木造二階建ての、まさに「学校の怪談」に出てきそうなところで、体育館は底が抜ける度に部分的な補修をして、まだら模様になっていた。ついでを言うと土地が低いのと水捌けの悪さから、運動場はその季節になると年中行事のように冠水していた。オマケに高校に入って他校から来た友達から話を聞くと、びん牛乳であったのは私達の学校だけで、「それ(パック牛乳)ならミルメークはどうやって入れるんだよ(オリジナルは方言)」という問いに、「チューブ」と答えられ、それなりにショックを受けた。おんぼろ校舎にびん牛乳+粉末ミルメーク、とどめは坊主頭というハンディキャップを同じ市立中学という条件にもかかわらず、僕等は背負わされていたわけだ。

 そんな校舎も私達の卒業から約五年後に改築され、今はそれなりの鉄筋作りである。オマケに今では坊主頭も廃止されている。きっと、パック牛乳にチューブのミルメークにもなったことだろう。「中学校が改築されるらしい」という話が友人から伝わって来たが、私には特に何の感情も起きなかった。中には「寂しくなる」とか「残念だ」というありがちなことを言う者もいたが、在校生には迷惑な話である。自分達が中学生だった頃を思い出してみればいい。誰もがこんなおんぼろ校舎は嫌で、一刻も早く改築して欲しいと願ったはずである。それを卒業した途端に「思い出を壊さないでくれ」と言うのは何とも身勝手な話だ。極端な話、別れた彼女がきれいになるのをひがんでいるようなもんだと思う。