第172話 ■2000年への忘れ物

 主婦達の会話に聞き耳を立てると、2000年問題の対策として石油ストーブが売れているらしい。ファンヒータも電気が止まってしまっては使用出来ないため、いざというときはローテクが良いようだ。おまけに灯油は便乗して高値傾向らしい。やれ、水はどうした、それ以外も「2、3日しのげれば、何とかなるだろう」といった感じである。一部報道では七輪(しちりん)までも売れているとの情報もあるが、その後の練炭の供給を考えるとカセットコンロの方が現実的だろう。

 2000年問題については色々な対策がアナウンスされているが、どこか変なものもある。「もしものために、預金残高を通帳に記帳しましょう」というもの。仮に100万円の残高があり、それを記帳した後、キャッシュカードでその100万円を引き出したとしよう。通帳には100万円と記載されているが実際の残高は0円である。これでも通帳に残高を記帳しておくことに意味があるとでも言うのか。もし、2000年問題でこの銀行の預金残高データがふっとんだとしても、バックアップデータは万全のはず。こんなインチキ通帳の出番などあるはずもない。こんなことで年末の銀行に列をなす暇があったら、家で大掃除でもしていた方がましである。

 2000年問題は忘れ物と同じような性質のものだと思う。家を出る際に家人が「忘れ物ない?」と尋ねるが、忘れ物は結果としての存在するもので、ここであれころ考えて気が付くものではない。2000年問題と騒いだところで予想されていることをやり尽くしたのならば、あとはその時を待つしかない。それでも何か起きたらとしたら、それは2000年に向けての忘れ物でしかないのだから。