第1762話 ■遺稿整理

 最近、ある人の遺稿の整理に着手した。その人と存命中に面識があるわけでなく、また、遺族の方からの依頼があったわけでもないが、見つけ出した宝を何とか本などの形にして日の目を見る状態にしたいと思っている。ちょっとした出版プロデューサー気取りである。その原稿とは落語をテーマに書かれたエッセイ集で、私が運営に関わるようになった、ある地方落語会のWebサイト宛に投稿されていたものだ。ざっと、100編を超え、ワードの文書で300ページを超える文量だ。

 まずそのデータの裏付けに驚かされる。実際に江戸文化を紹介した書籍などを紐解き、落語で描写されている内容を細かく検証している。貨幣価値の話題であったり、旅行の行程、費用、服飾など、噺に出てくる内容が江戸時代の本当の姿を反映しているのか?、それとも当時の内容とは現実離れしていて、フィクションとして描かれているか?、など。毎回それぞれのテーマに対して、微に入り検証されている。落語好きとしては非常に勉強になる。

 また、実際に聞いた演者の口演を比較したりした回も登場している。志ん生さん、小さんさん、円生さん、馬生さん、志ん朝さん、文楽さん、金馬さん、など。たまに「○○師」という表現も出てくるが、大半は親しみを込めてか、「さん」づけで書かれている。いずれも昭和期の名人と言われた人々だが、中にはこの数十年の間に、襲名により、同じ名前の人が複数存在した事実がある。中には、「先代の金馬さん」、といった感じである程度特定して書かれている場合もあるが、できればこれに、それぞれ何代目であったかを補っていこうかと思っている。

 原稿を読みながら、「おや?」というところも出てくる。登場人物の名前や地名が正しく変換されていなかったり、そもそも間違っていたりする場合もある。著者が存命であれば、確認する手立てもあるが、それはできない。間違いも含めて、オリジナルを尊重し、原稿のまま編集してしまう手もあるが、明らかな間違いをそのまま残しておくのは故人のメンツにも関わるものだろうから、そこには手を入れることにした。落語好きだからできる醍醐味でもある。また、難しい漢字がいろいろと出てくる。噺の内容に関わる部分であれば、それは残すべきだが、読みにくいものは、ひらがなでの表記に改めている。

 一通り、校正と編集が済んだら、仕上げに索引を作る予定だ。但し、電子出版を想定し、ページ番号ではなく、各話の番号にリンクを張ることにしたい。たとえば、「芝浜」という噺は何話と何話に出てきた、といった感じだ。同様に噺家の名前も何話に登場していたかをまとめたい。ついでに参考文献の一覧も。

 この作業が済んだら、次はいよいよ自分の原稿を整理して、電子書籍化を計画している。他人の原稿を読み、編集していく作業は自分の原稿の執筆や編集にも少なからず良い影響があると思っている。

(秀)