第1823話 ■西島秀俊を演じる

 西島秀俊が演じる、ではない。西島秀俊を演じる、である。誰が?。もちろん、私が、である。ざっとこんな背景から始まる。

 家人が母親に呼ばれて、ここ数日帰省している。10日間と従来にはない、長期間となる。私はこれまでに一人暮らしをしたことがないので、家事諸々への対応が必要となるのはこんな時くらいだ。私と二人の娘がぽつんと置いて行かれた。

 娘達は、仕事に出掛け、学校に出掛け、私の朝は台所で使った食器を食洗機に放り込むことで始まる。そして、着替えをして、それを洗濯機に放り込んで、洗濯機を回す。操作方法はとりあえず教わっている。ただ油断をして、柔軟剤を入れる場所を間違えて、洗剤・漂白剤と同じ箇所に入れてしまった。とりあえず、問題は生じていない。

 私の書斎の窓からは、かつて通勤で使っていた電車が見える。特に朝夕、その電車を眺めながら、「ご苦労さん」と心の中で呟いて、通勤による時間のロス、ストレス・苦痛から解放されたことを喜んでいた。

 洗濯機が終了を告げるアラームで呼んでいる。洗い終わったものを再びカゴに入れ、物干し場へと移動する。角ハンガーという洗濯バサミがたくさん付いたアレに、次々に干していく。洗剤のテレビCMで主夫役をしている西島秀俊をイメージしながら、西島秀俊を演じる。うん、名前がちょっと似ているだけで、それ以外の共通点など思い当たらない。

 そこからも、電車が見える。電車の窓越しに洗濯物を干す、中年男性が見えているはずだ。だから、そのタイミングには、余計に意識して西島秀俊を演じる。もちろん、どこにもカメラなどはない。

(秀)