第1831話 ■せっかち

 「打ち合わせをしましょう」と、候補日をもらったら、必ず最も早い日時を選んで回答する。理由などない、そういうふうにすると自分で決めたからそうしているだけでしかない。以前からもその下地はあった、サラリーマンの頃、派遣社員を選ぶ面接も、早い者勝ちで、必ず最初に会った人を選んでいた。「大会エンブレムのデザインを選んで下さい」と頼まれたら、「A案」と答えることに何の躊躇もない。

 そば屋に入ったら、お品書きの先頭に書いてあるものを選び、「とりあえず、ビール」。うーん、流石にこれらは嘘だ。

 私の今のせっかちは、ある種の裏返しである。組織の中で生きていくにあたって、あまり目立ち過ぎるのは良くないという処世術で、何かと受身で控え目に振舞っていた時期があった。常に周りの様子を伺って、ちょうど良い加減のところを探っていた。ただあまり得意ではなかった。みんなの都合を確認して、会議を設定するなど、煩わしいばかり。

 せっかちのせいか、仕事のペースが他の人と合わないことがしばしばある。問い掛けに対する返答だけでも、個々人それぞれのリズムがあるから仕方なく、並行して幾つかの作業をやりながら待つしかない。チャットなんかやると、相手が返事を返してくる間に、何件も撃ち込んでしまい、会話のペースが成り立たない。その点、LINEのテンポ感はやや気持ち良い。

 せっかちで良かったこと、しくじったこと、諸々あるけれども、こうして移動中にもスマホ(以前からも携帯端末)で原稿を書くということは明らかに、良かったことだと思う。一方で、歳を取った時にどうなっているが心配である。余命を気にして、あれもやろう、これもやろうということで、せっかちに拍車が掛かっているかもしれない。それでいて、頭も体も思うように動かないんだろうな。

 私はせっかちである。気に入った女性を口説くにも、面倒な口説き文句や会話などなく、相手の耳元で「好き!」とだけ囁く。もちろん、嘘である。むしろ、そこだけはまめだ。

(秀)