第1835話 ■局地的エッセイの書き出し

 「秀島」という名前の源をたどると佐賀発祥のモノだと思われる。佐賀でもそれほど多い名前ではないが、たまたま今の佐賀市長の苗字は秀島である。たどっていくとどうかは分からないが、近い親戚ではない。関東では「ヒデジマ」と読み間違える人が多いが、概ねこの苗字では得をしていると思う。数千人いる会社でも、ただ一人の苗字で、一時期福岡支店で同姓の女性が現れたが、やがてまた一人になった。

 この苗字で得している理由は2つある。とりあえず、「秀」という字のために、馬鹿っぽくは思われない。それともう一つは希少性である。小中高でも、在学中はほぼ一人しかいなかった。同窓会その他で、連絡を入れても、「どの鈴木?」、「どの佐藤?」、「どの高橋?」ということはない。「秀島です」と言えば、まま通じる。あまりにも希少性が高く、珍しい漢字だと説明が難しいが、そんなことはない。ただ、勝手に先方が漢字を想像して、「日出島」なる宛名でFAXが届くなんてことも、非常に稀だが、確かにあった。先にその候補を表示する、かな漢変換の辞書が馬鹿なのだと思う。日出島という地名や人名が実在するとしても、そちらの方が珍しいはずだ。

 司馬遼太郎の本に「アームストロング砲」という文庫があって、同名の短編がその本に収められている。会社に入ったときに「あの秀島か?」と同期入社の友人に聞かれたが、何のことだかわからなかった。その友人がその文庫本をくれたのだが、その中に「秀島藤之助」という人物が出てくる。それから数年後、社外の人と名刺交換をした際にも、この藤之助との関係を聞かれた。実際にこの本の主人公の秀島と自分に何らかの関係があるかどうかはよくわからない。そもそも亡父の系統の墓がどこにあるのかすら聞かされていない。先祖は下級武士であったらしいのだが、それすら確証もない。

 佐賀城は佐賀の乱(佐賀の人は「乱」というのを嫌い、一部では「佐賀戦争」なる言葉で呼んでいる)のときに、焼失した。そうでなければ、平地にある平城ながら、5層建て(5階建て)の見事な城だったらしい。おそらく城下のどこからでもその姿を見ることができたであろう。というわけで、私の私的な「半径2キロの超局地的エッセイ[佐賀編]」の書き出しとして、そのスタートをどこにしようか考えた結果、「佐賀城趾」を起点にしようと思い、そのイントロとして、この原稿を書いた。

(秀)