第1873話 ■ハンコの自動販売機

 役所の近くでは、こじんまりとした文房具店などでハンコを売られていたりする。役所への届け出る書類に印鑑が必要だが、あいにく持ってきていない。そんなとき向けの需要を見込んでのこと。「田中」とか「山田」とか、比較的ありがちな名前なら良いだろうが、私の名前のハンコはあまり売っていない。それほど儲けになるとは思えないから、困った人向けの人助けの側面が強そうだ。

 会社とかでは、ハンコはいつも引き出しに入れていた。だから自分のハンコで困ることはまずない。問題は上司のハンコが必要ながら、本人が不在のケース。結構管理がいい加減で、ハンコの在り処を部下に伝えて、「いないときは、勝手に押しといて~」なんて人もいたが、それは昔の話。本日が提出期限の書類に上司の印鑑が必要だが、その上司が出張だとしよう。彼の引き出しには鍵が掛かっている。上司に電話で連絡がついて、OKをもらったら、上司と同じ姓の人を社内で探して、事情を話してハンコを押して貰う。よくある名前だと助かるが、「田中」のハンコを逆さにして、「中田」と見せかけた、強者の話を聞いたことがある。これもちょっと昔の話。今では電子決裁になっているから。

 東京都庁第一庁舎の1Fと2Fに書店があるが、ここの2Fの店舗では印鑑も売っている。冒頭のように忘れた人向けの商売だろう。そしてその横には、ハンコの自動販売機が置いてあった。オーダーメイドで一本ずつ、その場で彫るのだ。面白いので、実際に自分のハンコを作ってみた。タッチパネルの操作で、まず文字の配置を選んで、彫る文字を入力する。今回は自分の名前をフルネームで4文字入力し、続いて、書体で「古印体」を指定した。最後は印鑑にする素材とサイズを選ぶのだが、最も安いもので500円。最も高いもので、2,500円。通常の自動販売機の商品が並ぶところに、これらの素材の見本が金額表示とともに並んでいる。

 私は、やや太めで、けど素材はケチって800円のものを選んだ。ただ、実際の彫刻の仕上がりには15分以上待たされる。持ち帰って、早速印肉を付けて押してみたら、これまでにない、多分同姓同名などいない、完全オリジナルの自分のフルネームの印影がそこにはあった。面白いので、また今度、次は一回りさらに大きなサイズで作ってみようかと思っている。

(秀)