第1893話 ■ソアラとプレリュード

 大学生当時、車の運転免許を取る前から車が欲しくて欲しくてたまらず、いろいろと探し、迷った挙句に最初に手に入れた車はスカイラインジャパンGT-Sの4ドアセダン前期型(丸目タイプ)だった。コンディションはあまり良くなく、18万円。幅広タイヤの割にはパワーステアリングではなく、カーステレオもない状態。先輩が廃車にするという車から自分で取り外すという条件でカーステレオをもらって、自分で取り付けも行った。

 本当はもっと良い車が欲しかったけど、大学生の自分に買えるはずがなく、学校はそこそこに、既に働いている人が良い車に乗っていた。そもそも娯楽の幅がない田舎なので、働いてお金を手にするようになると、まずは車を買うというのがお決まりのパターンだった。

 私が言う、当時の良い車とは、トヨタソアラ(初代、2代目)とホンダプレリュード(2代目、3代目)である。ソアラは当初、子育てが終わった、やや経済的に余裕がある世代をターゲットに2ドアハードトップとして開発されたのだと聞く。しかし、実際には若い世代に受け入れられ、ナンパ車として支持された。初代はややエッジがあるデザインで、それが2代目でなめらかなラインになって、ここまでは良かったが、3代目であまりにも形を変えすぎて、最初の頃の印象が人々から薄れる形で次第にその存在感もなくなってしまっていった。デジタル表示でのスピードメーターに近未来を感じたが、この頃はバブル経済の影響があり、全体的に豪華仕様だった。

 「初めて買った車は何でしたか?」と、会社勤めの頃に先輩に聞くと、たまに「プレリュード」という言葉が返ってきた。会社に入ってから買ったらしい。2代目プレリュード。ちなみに初代プレリュードは当時のシビックを前後に引っ張って伸ばして作ったようなデザインで、人気のある車ではなかった。それがなんと、2代目のモデルチェンジで大きく化けた。リトラクタブルライトの採用とともに、全体的なボディラインも魅力的になった。デザイナー、天才!。これまたもう一方のナンパ車の横綱だった。

 やがて、このプレリュードもモデルチェンジを行い、ほぼ正常進化と言えるような3代目となった。2代目の当初はフェンダーミラーだったが、途中でドアミラーになった、そんな時期のこと。このあたりは、デザインだけでなくCMでの見せ方なども実に上手かった。パワーとかスピードとか関係なく、あのフォルムの車が欲しいと言わしめる魅力に満ちていた。

 さて、日本車の多くは4年程度のサイクルでモデルチェンジを繰り返す。中にはモデルチェンジを迎えることなく、こっそりと姿を消す車も多い。基本的にモデルチェンジの際に、がっかりする事の方が多いような気がする。そういう意味では、今の私にはデザイン的に魅力的な車はない。ソアラは3代目、プレリュードは4代目であまりにも冒険をし過ぎて、販売量を大きく減らすとともに、存在感もなくしてしまう。いわゆる、しくじったってやつだ。さらに、最近は短命に終わる車が随分増えた。

 車の世界に限らず、例え現状維持するにしても、変化し続けることが求められる。変化しないと現状も維持できない。やがて飽きられて衰退するだけである。変化はチャンスでもある一方で、大きなリスクを伴う。初めて買った中古のスカイラインに乗りながら、いずれは新車のスカイラインを買えたらと思ったもんだが、もはや丸いテールランプがなくなってからはその気が失せてしまった。まさかGT-Rを買えるわけではないし、たとえ買えても多分買わない。

(秀)