第1926話 ■「嫌われる勇気」のドラマ化

 アドラー心理学の解説本、「嫌われる勇気」が出版されたのは、確か3年前のことだったと思う。それを今のタイミングで、しかも刑事ドラマ仕立てでドラマ化する意味がよく分からない。主演は香里奈。かなり偏屈な女性刑事を演じている。組織内でも完全に浮いていて、捜査方針と一線を画して単独行動。それをお守役の新人刑事が追い掛け、お決まりの通り、事件を解決してしまう。彼女の思考はアドラー心理学に基づいていると、椎名桔平演じる大学教授は語る。

 「嫌われる勇気」で表現されているアドラー心理学は難解だ。何故なら、その多くはこれまでの一般常識と逆のことを言っているからだ。過去と現在の関係を説明するにあたり、一般的には、過去の結果として現在があると考えがちだ。しかし、アドラーはこれを否定し、過去に対するそのような思い込みが未来に向かって現状を変えようとすることにブレーキを掛けているだけ、と説明する。解釈の違いかもしれないが、一括してこのような考え方を理解し、共感するのは難しい。そもそも理解することすら難しいことも多い。

 ストーリーとしては、アドラーの思想を刑事ドラマ仕立てにして、その主張を折り込んでいる点は、構成力としては良くできていると思う。ただ、それが視聴率に結びつくかというとそういうものではない。むしろ真面目過ぎたり、難解な構成のために敬遠されることが多いだろう。予想通りというか、案の定、視聴率は良くないようだ。

 「(その推理)明確に否定します」というのが、香里奈のキメ台詞であり、これを無表情で言う。このドS振りはドクターXでの米倉涼子の「私失敗しないので」に通じる感じもあるが、米倉の場合は自己自慢であるが、香里奈の場合は他者の否定である。よって後者にはより嫌悪感がつきまとう。しかもこれを1回の放送の中で何度も用いる。おいおい、香里奈が嫌われるドラマか?。

 3年前に多少話題になった程度で、どのくらいの人がそれを読んで理解し、共感したかが分からないものをどうして今時分にドラマ化しただろうか?。そもそもこの様な本を読む人はテレビドラマをほとんど見ない。そして、この様なドラマを好んで見る様な人はこの様な本を読まないのがほとんど。ミスマッチだ。香里奈は嫌われ、視聴率が取れない、嫌われるドラマになりそうだ。その嫌われる勇気を肯定できるかどうか?。フジテレビの迷走の縮図のような気がする。

(秀)