第193話 ■水商売のウソ

 大学のときに「居酒屋の『飲み邦題無料チケット』があるけど行くか?」と友人が尋ねてきたので、仲間数人とその居酒屋に出かけることになった。なにぶん臆病(貧乏学生)なので、飲み始める前にそのチケットを店員に見せて、「これ使えますか?」と確認してからのスタートである。オーダーできるのは焼酎にウイスキーだったと思う。焼酎をビンごと出してもらい、水割りにして飲むことにした。つまみ代だけで済むという気持ちで盛り上がったが、問題は会計の時にやってきた。手元に来た伝票には「アイス」と書かれていた。「誰かアイス食ったか?」。アイスをアイスクリームと決め付けているところがガキである。店員に「誰もアイスクリームなんか頼んでいませんよ」と尋ねると、鼻で笑うかのように、「水割りの氷のことです」と言われた。確かに無料の飲み邦題ではあるが、氷と水は別という話である。なるほど、ビールが飲み放題の対象にないはずだ。やられた。

 最近、テレビのCMでインド人がカレーを食べ邦題だと思って、たらふく食べた後に伝票を受け取り、「ライスは別料金です」と言われるやつがあるが、あれを見てこの飲み放題チケットのことを思い出した。カレー食べ放題の方は、私だったら仕返しで、また行ってカレーばかり食べて出てこよう、と思った。

 飲み屋はやはり怪しいというか、せこい世界である。ちょっと気の利いた風のスナックなどで水割りを飲むと、お姉さんがせっせと水割りを作ってくれるが、あれはボトルを一刻も早く空にしようという店側の策略である。もっとひどい策略として、水がミネラルウォーターのビンに入って出て来るところもあるが、始めっから栓が開いているところは「水道の水だろう」というのがミエミエである。潔くないと言うか、姑息と言うか。これが水商売と言われる由縁と言われてしまえば身も蓋もないが。