第1949話 ■詳しい素人の弊害

 仕事柄、既にあるWebサイトを見て評価することが多い。制作からしばらく経っているものについては、技術的な変化や流行などの差があるわけで、それほど細かくレポートする手間もなく、既に古いことによる不利益を説明すれば良い。だいたいそのようなサイトは更新が途絶えている。ただ、これまでうまくいってないために、諦めている人の説得は面倒である。

 そんな中、結構新しいサイトでありながらも全くダメなサイトも少なからずある。Webサイトの見映えなんか、使用する写真で80%以上は決まる。だから、見映えの良いサイトを作ることはそれほど難しくない。依頼元への説明などもやりやすい。ただ、来訪者が使いやすいのかは別問題だ。探している情報がどこにあるのかわからない、そもそもその情報がそのサイト内にあるのかすらわからない。検索エンジン経由でアクセスしてくる人の平均閲覧ページ数はわずか2ページしかないので、その間に欲しい情報にたどり着けるようにしなければ、即そのサイトからは離脱される。

 看板が綺麗だから中に入ってみたが、どこに何が並んでいるかわからない商店。店員の姿もなく、尋ねることもできない。運良く目的のものが見つかっても、今度はレジが見つからない。何とかレジにたどり着いても、いろいろと面倒くさいことに答えなければならない。結局、かごを放り出して店を出る。そんな感じだ。

 たぶん、「愛」が足りないんだと思う。サイト制作者は実際に自分がその商品やサービスを買う立場で、サイト内の動線を検証すべきだ。そして今度は逆に、売る立場から、情報の過不足がないかを検証してみる。例え、エステサロンについても、自分が行ってみる気になる、もちろん行かないけど。どういうワードで検索するか?。どういう条件で絞り込んで決定するか?。わからないことは周りに聞いてみて、依頼元とも会話してみる。もし想定が異なっていたら、修正を繰り返してみて、最善を探す。

 私は就職した最初の1年間にSEとしての研修で、プログラミングやシステム設計の勉強をした。その後の配属で、専業としてこのような仕事をすることはなかったが、仕事の一部としてのプログラミングは続けた。後に法務関係の文書を読んだり、作成したりという仕事も担当することになったが、法務文書はプログラムのコーディングに非常に似ている。「AND」「OR」これを正しく理解しないと全く逆の解釈になったりする。プログラムならエラーを出すか、無限ループに入り込んだり。

 良くないWebサイトの例は、汚いプログラムのようなものだ。そして、肝心な処理が途中で途絶えているので、レジが見つからなかったり、うまく目的の情報にたどり着くための動線が欠落したりしている。プログラムなら正しく動かないであろうものも、Webサイトのデザイン上はそれがわかりにくい。しかし、ちょっと腰を据えて、本気で買う気になって探ってみると、その不具合が分かる。不具合は1つ見つかると、必ず幾つも潜在している。

 相手先の社長がこちらからの提案を聞き入れてくれて、けど最後の段階で「社内の詳しい人間に聞いてみる」と言われるケースがある。この言葉が出てくると、これまでの話がご破算になる可能性が高い。その詳しい人は、当方からの提案で、多少なりとも自分がやってきた作業を否定されることになる。そこで盛んに抵抗し、「必要ない」と盛んに社長に訴える。社員の方がかわいいだろうから、後日お断りの連絡が入ることになる。この「詳しい素人」には悩まされる。

 このように、人を操るのは難しいが、プログラムでコンピュータを動かすのは、必ず決まった結果を弾き出すという点で、分かりやすい。小学校でプログラミングを教えるということについて、私はあまり賛同しない。学校で教えることには、基本的に答があるが、本当のプログラムを書くことは、小説を書くことや作曲を行うようなことで、先生も困るし、親も教えられない。そんな塾のニーズも増えるだろうが、これまた「詳しい素人」を増産するだけのような気がしてならない。何より、教える立場が「詳しい素人」の可能性が高いしね。

(秀)