第1952話 ■北ミサイルが飛んできた日

 確か、6時2分だった。スマホが鳴った。そんなにけたたましい音ではなく、災害情報や熱中症注意の警報と同様の知らせだった。いつもなら、そんなもの無視して寝続けるのだが、このときは起き出して数歩歩き、スマホを手に取った。「北朝鮮がミサイルを発射」とある。急いでリモコンを手にテレビを点けた。いつのタイミングでメガネを掛けたかは覚えていない。

 テレビが点くと、「Jアラート」の警報画面だった。急いでリモコンの「マルチ画面」ボタンを押す。自室にあるテレビには、同時に地上波7チャンネルともう1チャンネル(これは地上波でも可、拡大画面)を表示する機能がある。地上波全てが同じような不気味な黒い背景の文字を映し出していた。警戒地域が文字で羅列されている中から、とりあえず千葉や東京がないことを確認した。そんな中、同様に文字だけでの道県名表示の中、TBSだけが対象地域を黄色く塗った日本地図を合わせて表示して分かりやすかった。

 続いて、ラジオのスイッチも点けたら、もちろん同様に警戒情報を伝えていた。しかしこちらはテレビほどの緊張感はなく、CMも流していた。そうこうしている間に数分が経ったわけで、この時点で既にミサイルは日本領土の上を通り過ぎていたことになる。「地下や頑丈な建物に避難して下さい」と繰り返しているうちに、北海道襟裳岬を越えて、太平洋に着弾していたようだ。着弾点は襟裳岬から東1,180キロ付近、飛行距離:2,700キロ、高度:550キロ。マルチ画面の写真を撮り忘れてしまったことを後悔したのは、一斉の画面表示が終わってしばらく経ってのことだった。その後、中距離弾道ミサイルだったとの報道があった。

 このほんの僅かな時間に何ができるかを考えることは大事なことだと思うが、実際にはほとんど身動きが取れずにその瞬間を迎えるのではなかろうか。いくら頑丈な建物に避難しようと直接被弾してしまえば、まず助からない。今日の様な早い時刻であれば、地下街などは閉鎖されているかもしれない。また、地下の入口付近では一斉に多くの人が押し掛けて、パニックによる災害など、いろいろな思いがよぎる。

 何処かに逃げて身を守るのは、直接的な被弾ではなく、周囲に着弾した際の生き残りのための方策なのだろう。もし、陸地に着弾したら、その破片だけでなく周囲のものや破壊したもの、衝撃波で自動車なども飛んで来るかもしれないし、車で走っていて自分が車ごと飛ばされるかもしれない。橋や高架が落ちたり、部分的に津波もあり得る。とりあえず二次的な飛来物や衝撃から身を守るための避難。

 たとえ核ミサイルを使わなくとも、原子力発電所を狙われたらどうするんだろう。それこそ迎撃ミサイルで撃ち落とすつもりなのだろうけど、そんなコストや不安を抱えての原子力発電所稼働に改めて疑問連発。ただ即稼働を止めても、狙われたら同じなのだろうが。午前中に都内まで車で出掛けたが、街は思った以上に平穏だった。「情報の収集と分析」、「圧力」。毎度聞き慣れた言葉が繰り返されながら、この日を迎えた。そして今日も同じ言葉が繰り返されることへの不安と遺憾な気持ち。取り急ぎ、今日のことを書き記しておく。

(秀)