第198話 ■学級閉鎖

 我が家にもインフルエンザがやって来た。前日まで元気だった長男もその日、「学級閉鎖のお知らせ」という学校からのプリントを手土産に家に帰りつくや寝込んでしまったらしい。家人が掛かりつけの医者に連れて行くと、「学級閉鎖はボクのクラスだったか?。学級閉鎖は私が決めたんです」と先生が言ったそうだ。プリントに書いてあった「校医の先生と相談して・・・」ということらしい。たまたま、インフルエンザワクチンが入荷した直後だったようで、「良かったね、今日で」と、慰めにもならない言葉を掛けてもらったらしい。

 昔はピークになる前に年に2回、インフルエンザ予防接種が行われるのが決まりごとだったが、最近はそうでないらしい。体育館に集められて、問診、接種と列をなすのであるが、「あっ、太郎ちゃんのお父さんだ(お医者さんなのです)」と声があがったり、「校医(太郎ちゃんのお父さんは違います)はやぶ医者」、「さっき右の列の子が泣いていた」などと噂が飛び交う。その後の体育の時間が読書の時間になったり、「今日はお風呂に入れません」と先生が説明したりする。

 いったいクラスの何人が休めば学級閉鎖となるのか詳しい基準は知らないが、子供達の中では10人という説が信じられていた。朝、欠席予定者の票読みが行われる。いつも一緒に登校する○○君が今日は休むとか、昨日休んだ□□君は今日も来ないだろう、と。そして、チャイムが鳴った。空席を数えるとちょうど10人である。こんな時に限って先生の来るのが遅いのも「学級閉鎖にするかどうかを、決めてんだよ」と解釈する始末。そんなとき教室の戸がガラガラと開いた。慌てて席に着く横目で見たのは、マスクをし、マフラーをグルグル巻きにして現れた、クラスメイトだった。緊張が解けるとともに、彼への攻撃が始まる。「帰れ、帰れ。お前が休めば学級閉鎖だから」。なんとも子供は正直かつ残酷なのである。

 そんな中、先生が現れ、隣のクラスが即日学級閉鎖となって、慌ただしく下校していく騒ぎの中、自分のクラスではいつものように国語の授業が始まった。給食も良いけど、やはり隣のクラスがうらやましい。