第211話 ■ちゃぶ台

 会社の昼休みにタクシーで品川まで行って、ホテルで中華を食べるという、送別会を兼ねたイベントがあった。中華というといつも「炒飯&餃子」と決まっている自分もこの日ばかりは通常の五倍もの費用を掛けて昼食を取ることになった。もちろん自腹。中華料理店のテーブルは例によって、回転テーブルである。「この上の部分(回るところね)を卓袱(ちゃぶ)台の上に載せると豪華な卓袱台になるなあ」。せっかくの料理を目の前に、発想がどうもせこい。

 話は変わって、週末、「Robot-ism 1950-2000」というイベントを見て来た。マルチメディアの振興を目的とした団体のイベントである。展示品の中に「チャブロボ」というロボットの展示物があった。機械仕掛けで動くそのロボは、ギアやチェーンはむき出しながら、顔や体の外装の大部分は人間らしい姿に覆われている。「たけしの誰でもピカソ」に出てくる感じのテイストに仕上がっている。ロボットは三体。お父さん、お母さん、それに男の子が卓袱台を囲み食事を取っている。そして、親父の横には作り物の一升瓶が置いてある。これがシチュエーションをよりリアルにしている。

 見物人が集まったところで係員がボタンを押すと、親父の肩に取り付けられたパトライト(赤色灯)がクルクルと点灯し始め、頭から湯気が吹き出す。しばらくするとギアがゆっくりとチェーンを巻き上げ、期待通りに親父ロボは卓袱台をひっくり返した。父権の復活を象徴する、その親父ロボの動き、特にパトライトが良い、に心の中で拍手をおくった。しかし、しばらくするとギアが逆転し始め、セットは元通りに復元されるが、単純なその巻き戻しに、ひっくり返された卓袱台の後片付けをする母親の悲哀とその後の親父の気まずさ、それに団欒を壊されて泣きじゃくる子供の姿まで再現されているような気がして来た。ロボットでそこまで表現することは素晴らしいことかもしれないがリアル感がかえって悲しみを誘い、長男の手を引いて、急いでその場所を離れた。