第212話 ■電車の中で思うこと

 私が通勤で利用している常磐線はあまり行儀の良い電車ではない。夕方となると長距離通勤のおじさん達がビールやカップ酒を飲み始め、スルメやチーかま(チーズかまぼこのことね)をかじったりしている。特に長距離用のボックスシートの車両となると、こんな人達が必ず各車両ごとにいる。上野始発、というのがピッタリの風景である。

 携帯電話に限らず、この他にも電車の中の困ったことはいろいろある。「何も朝から」と、言いたいほど、スポーツ新聞のHネタを熱心に読んでいるオヤジがいる。宅配のスポーツ新聞はHなページがないので、これは駅売りのものである。これが果たして痴漢行為を抑制しているのか助長しているのか分からないが、いざ濡れ衣となって捕まり、荷物を調べられ、こんなスポーツ新聞が出て来たら、しかもそのページが折り返しで開いていたら、反論のトーンも一気に萎えてしまう。これ以上の状況証拠はないだろう。夕方もタブロイド紙に同様のページがある。新聞を折り返して読んでいると、裏面もHなページだったりするので気を付けよう。こんな人は家族の手前、家に新聞を持ち帰るのが恥ずかしいのか、一気に読み終え、網棚に乗せたまま電車を下りていくことが多い。

 これは本で読んだのか、芝居かなんかの台詞だったか、「両手で(2個の)吊り革に掴まるような奴に、うちの娘はやらん」という台詞があった。目の前にそんな男がいて吐いている台詞ではなく、単に「こんな奴は嫌いだ。許せん」という例えで出て来たと思う。「両手で吊り革を持つような奴にろくな奴はおらん」、そんな感じだった。私はこの言葉が妙に気に入った。そして、電車の中で見掛ける「両手吊り革」の男達が許せなくなった。許せないからといって、後ろからこっそり、膝カックンをやりにいくわけではないが、見ててあれは格好悪い。だいたい、夕方はくたびれたオヤジが掴まっているというか、ぶら下がっているが、不思議なことに、朝見掛ける両手吊り革男は逆に元気で吊り革に掴まったまま、体を乗り出して窓の外を見たり、あたりを見回したりしている。いったい、あのエネルギーはどこから来るのだろうか?。