第225話 ■激写王

 会社の机の引出の中も秘密で溢れている。家には持って帰れないものが日々たまっていく。飲み会のときの写真なんかまさにそうである。かれこれ、24、5才頃からの写真がしまわれている。赤い顔して、マイクを握っているシーンが多い。しかし、最近の写真は少ない。最近はデジカメで撮ることが多くなったからだ。これらは私の机の引出の中ではなく、会社の部のサーバの中にため込まれている。コラムのWebにある「激写王」というコーナーのタイトルはこのサーバのフォルダの名前に由来している。もちろん、そのサーバの管理者は私だ。

 こっちはまさに「激写王」の名にふさわしいコンテンツで溢れている。お姉さんのいる店には必ずデジカメを持参する時期があった。以前の「フィルム、大丈夫か?」という確認は「電池、大丈夫か?」という言葉に変わり、いつかはカラオケのリモコンから失敬したこともある。すぐに見られるというデジカメの長所を生かし、お姉さん達ともたくさんの写真を撮った。紙焼きに比べると安いし、バカな姿を写真屋にさらさずにすむのも良い。こんな写真がサーバの「激写王」の中で各イベント毎にフォルダ分けされている。

 今のマンションに引っ越して来る前の話。朝出かける時に通りに面したマンションのゴミ捨て場のところに1枚の写真が落ちていた。お姉さんと酔っぱらい中年オヤジのツーショット写真である。お姉さんは明らかに素人ではなく、オヤジに寄り掛かっている。一方、オヤジは、おそらくクリスマスの時期だったのだろう、三角のとんがり帽子をかぶせられ、お姉さんの肩に手を回し、ご満悦の笑みを浮かべている。バックの雰囲気はまさしくそんな感じの店の中である。「さすがにこんな写真を家には持って帰れなかったのだろう」とオヤジの気持ちを察した。その日家に帰って、この話を女房にすると、「私も見た」と言う。「あの写真の女の人は、隣のアパートの人だよ」と、私の想像はもろくも崩れさった。写真を捨てたのはオヤジではなく、お姉さんの方だったらしい。いや、待て。お姉さんの部屋を訪ねた帰りにオヤジの方が捨てたのでは?!。しかし、あのオヤジの風貌からして、それは深読みのし過ぎだったようだ。