第234話 ■電話の使用法

 神社での正式の参拝方法は「二礼二拍手一礼」となっている。神前で挙式した人は耳元で神主さんか巫女さんがささやいてくれたことだろう。しかし、初詣となるとこうもいかない。そそくさと二拍手して最後の礼も済まぬまま押し出される具合である。そして、忘れてはならない。二礼の前にジャラジャラと鈴を鳴らすのだった。でっかい鈴だったり、ドラみたいなものを打ち鳴らす所もある。あれが何という名前なのか知らないが、機能は良く知っている。神様を呼び出す装置だ。あれをジャラジャラとやって、「これからお願いをしますよ。良く聞いて下さいよ」というための装置である。

 これに似たようなものが昔の電話には付いていた。昔といっても、ここ数十年の話ではなく、おじいちゃん、おばあちゃんが若かりし時代のことである。実物は見たことがないにしても写真や映画などで見たことがある人も多いだろう。その電話器にはダイヤルが付いていない。もちろん、プッシュボタンも。代わりに電話器の右側面には、くるくる回す、クランクが付いている。映画などで見ると、電話を掛ける際にまずこのクランクを回している。しかし、あれはネジを巻いている訳ではない。あれは、発電しているのだ。発電と言っても、電話そのものの電力を確保しようというものではなく、交換手を呼び出しすために僅かながらの電圧を生じさせる装置である。まずあのクランクを回し、交換手を呼び出す。通話が終了する際も同様に交換手を呼びだし、回線を切断して貰わなければならない。

 「実体験も無く、よくここまで、しゃあしゃあと・・」、と言われる方がいらっしゃるかもしれないが、当コラムでは実体験のない、単なる拾った知識の押し売りはやらない主義である。ちゃんと実体験して来た。東京は大手町にある、「逓信総合博物館(通称「ていぱーく」)」は郵便、電話、放送をテーマにした、公共の博物館で、ここでは実際に昔の電話器に触ることができるし、手動交換機の操作も体験出来る。やがて、関東大震災で交換所が被害を受けたのと、交換手不足から、電話交換機は手動から自動になった。公衆電話も、「自働(自動ではない)公衆電話」として登場してくる。大事なことを忘れていた。公衆電話にはお金を入れなくてはならない。神社でも二礼の前に賽銭を入れなくてはならない。電話では発電クランクをクルクルやる必要はなくなったが、変わりにダイヤルをクルクルやるようになった。