第24話 ■遥かな町へ

 マンガを卒業してからどれくらいが経つだろうか。就職当時は月曜日となると少年ジャンプを携え、出勤していたものである。それからしばらくして、読む雑誌の嗜好は一変し、金を出してまでマンガを読むことはなくなってしまった。

 「遥かな町へ」というのは最近読んだマンガのタイトルである。少年用のマンガではなく、そもそもはビッグコミックに連載されていたものらしい。それが上下巻のコミックになり、幾つかの雑誌で紹介されていた。「あの日に戻りたいなあ」と思うことはよくあるが、そんなタイムスリップをした中年男性が主人公の話である。主なあらすじは次のようなものだ。

 主人公は48歳の男性。出張の帰りに故郷の近くを訪れるが、電車を間違え、故郷の駅に降り立つ。時間もあるので、久しぶりに母親の墓前を訪れるが、そのときに気を失い、気がついたら14歳の姿となっていた。町もその当時の面影のまま。とりあえず、自分の実家に戻ってみるが、家族も当時そのまま、亡き祖母や母親に接する。元に戻る術も分からず、主人公はそのまましばらく、この時代で暮らしてみようと思う。中学生になっても記憶は残ったままのため、急に優等生になり、かつてあこがれていた同級生との恋も始まった。そんな中、両親の結婚の秘密を知る。そして、その年の夏休みの最後の日に父親が蒸発してしまったことを思い出す。「今の自分には父親の蒸発を止められるかも」と駅で父親を待つ、48歳の大人として父親の話を聞くと、父親を止めることはできなかった。やがて最初にタイムスリップした墓の前を訪れることで主人公は元のタイミングに戻る。慌てて帰途につくと、途中電車を乗り換えるときに、蒸発した父親らしい男性を見掛ける。しかし、ホームを歩く老人をよそに、無情にも自分の乗った電車は走り出してしまった。

 クライマックスは父親の蒸発を止めようとする時のやりとりである。主人公が何故父親の蒸発を止められなかったのか?。主人公をはじめ、我々の多くが「あの日に戻りたい」、「もう一度やり直したい」と思う気持ちを、時間こそ取り返せないが父親はその選択肢を選んだのである。それが許せるか、許せないか、人によって、特に男女によって分かれるかもしれない。

※「遙かな町へ(上・下)」谷口ジロー 著 小学館 各800円