第240話 ■カンヅメ

 当コラムも執筆開始から1周年を迎えるに至った。「いつかは本に…」という願いは思いのほか、早期に達せられる見通しとなり、ご同慶の至りである。ところが、その入稿が遅れている。何も新たに書き下ろす必要はないのだが、今となって読み返してみると、誤変換や脱字が見つかるし、言葉足らずなところや、変な言い回しのところを書き直してみたくなる。そして、挙げ句には一読者となり読みふけってしまう始末。何しろ、文量が多すぎる。毎日の執筆に加えての、この校正は結構大変なことだ。

 まとまった時間に一気呵成に片付けてしまうのが良いのだろうが、休日に部屋に閉じこもっていては「秘密」がばれてしまう。こうなればいっそのことカンヅメになるのが良いかもしれない。作家先生方が締切間際に出版社にさらわれ、旅館やホテルに閉じこめられた上、仕事が上がるまで帰してもらえない、アレである。される側はどんなもんだろうか?。なんかプロっぽくてあこがれてしまう。しなびた旅館が良いか。いや、移動時間も惜しいので、東京駅のステーションホテルというのが通勤途中でもあり、絶好のポジションである。そして、もう1つの候補はお茶の水にある、山の上ホテル。カンヅメ旅館としては有名どころである。かと言って、会社をサボって(家族には出張と偽って)、自費で投宿し、自らカンヅメになるほどの甲斐性はあいにく持ち合わせていない。せめては会社帰りに、東京駅かお茶の水駅近くの喫茶店でノートPCを持ち込み、それとなく気分に浸るのが精一杯であろう。「いつかは『山の上ホテル』」。本を出した次の目標はこれにしよう。

 本には欲張ってこの240話までの全作品を載せようと思う。できれば、それに簡単な書下ろしも付けて。縦書き右開きにし、行間も空いているため、PCの画面で読むよりは格別に読み易いはずだ。場所を問わずに読めるのが何よりうれしい。リリースは最短で1ヶ月後ぐらいになりそうだ。これ以上、ズルズルと遅れないように今週中には入稿しよう。しかし、今日の電車はカンヅメどころか、すし詰め状態でまいったなあ。