第248話 ■親子丼

 夕飯は親子丼だった。味については語るまい。さて、私の中の「ザ・親子丼」は日本橋は人形町の「玉ひで」のそれと決まっている。テレビ東京などの「行列のできる店」として、親子丼となると、必ず登場する有名店である。何よりも、ここが親子丼発祥の店で、入口に「親子丼の祖」と書かれた、おばあちゃんの写真が飾ってある。昼間は600円(今もそうかな?)で親子丼が食べられる。それこそ、長い行列が出来ているが、13時までにこの行列に並べば、待たされたにせよ親子丼にありつくシステムを取っている。

 ここの親子丼は鶏肉と卵だけで作られていて、玉葱も蒲鉾も入っていない。純粋に親子で邪魔者はなく、水入らずの状態だ。ダシはちょっと甘め。実を言うと私はこの店に昼間に列をなしたことはない。夜に2回出かけた。夜は鶏(軍鶏)料理のコースを値段に応じて出てくる。うって変わって、最も安いコースでも7,000円もする。コースのメインは「鶏すき(やき)」で、コースの最後に親子丼が出て来ることになっている(こちらの親子丼は半人前ぐらいのサイズが標準であるが、丼サイズへの変更も無料で可能)。

 先程、「(玉ひでの)丼の中は水入らず」と書いたが、ちょっと引っ掛かることがある。別にこれは玉ひでに限ったことではないが。鶏と卵で親子と言うわけで、これがもし牛肉なら「他人丼」となる。それは誰の目にも明らかである(牛と卵は人間ではないけど)。しかし、任意の鶏と卵を捕まえて、「親子です」と言うのは、甚だ乱暴な話である。丼の中の鶏が産んだ卵でとじられていることなど有り得ない。「『親子丼』と名乗るからには血統書を持って来い」と言いたい。けど、味は一緒。