第277話 ■謎のドレミ号

 我が実家の2軒先は自転車屋であった。このため、ずっと子供の頃から自転車を買ってもらうときはこの店と決まっていた。今みたいにスーパーやディスカウントショップで買う習慣もない時代であるし、何よりも近所付き合いが大事だった。というわけで、三輪車の次にこの自転車屋で初めて自転車を買ってもらったのは、小学1年のときの16インチのミヤタ自転車製「ピノキオ」だった。色はメタリックの黄緑という、今思えばかなりちんぷんな色であった。けど本当に欲しかった自転車はこんな自転車ではなく、ブリジストンのドレミ号だった。しかし、この自転車屋が扱っているメーカーはミヤタと丸石でしかなかった。

 ドレミ号というのは、仮面ライダーのサイクロン号を模した子供用の自転車のことである。サイズによって3種類あった。メーカーはブリジストンで、仮面ライダーのスポンサーのため、番組を見ているとこのドレミ号のCMが毎週数回にわたって流れる。ついでに「少年仮面ライダー隊」なる、少年達による支援組織が番組に登場するや、彼らの自転車はもちろんの如くドレミ号という、今思えばタイアップによるプロモーションが展開されていた。「ああ、ドレミ号が欲しい」、「(ついでに)少年ライダー隊にも入りたい」。こんな思いを抱いていたのは自分だけではなかったことだろう。しかし、不思議なことに近所にもクラスメイトにもドレミ号を持っている者はいなかった。

 露出度や認知度ではピノキオ号の比ではなかったにも関わらず、ドレミ号を所有する友達がいないのはどういうわけだろうか?。ズバリの解答は私にも難しいが、1つにはドレミ号が高価であったことが挙げられるだろう。当時(二七、八年前)でもドレミ号は25,000円程度だったと思う。ピノキオ号は確かそれよりも1万円は安かったと思う。このことからすれば、自分の場合、例え馴染みの自転車屋がドレミ号を扱っていても、この金額ではどうせ買っては貰えなかったことだろう。それともう一つの理由を挙げるとすると、周りにブリジストンの自転車を扱う自転車屋がほとんどなかったからであろう。町内の端にあった自転車屋は確かにブリジストンの店であったが、店先にドレミ号はなかったし、そこの息子もドレミ号ではなかった。

 ブリジストンはこのように販売店不足(田舎だけか?)という、チャネル政策が不十分な状態でありながらも、商魂たくましく、しばらく後には女の子向けに「ドレミ真理ちゃん号」をリリースした。白雪姫の格好をした女の子と天地真理が「女の子にはドレミ真理ちゃん」と、CMをやっていたが、これも持っている人を見ることはなかった。