第278話 ■嬲る

 週末は近くの中学校の体育祭であった。来賓としてお招きを受けていたので、ちょっと出かけてみた。去年も同様にお招きにより出かけたが(第40話参照)、早いものでもうあれから一年が経ったわけだ。体育祭の雰囲気は時間や場所が変わっても、その様子は自分達の頃とほとんど変わっていない。暑い中、学ランを羽織って応援する人々は相変わらず大変である。

 障害物や団体競技はギャンブル的な要素があった方が良いし、その内容は出来るだけシンプルな方が良い。このため、出て来るアイテムは跳び箱や平均台、ムカデに二人三脚というものに集中していく。2年生のクラス別団体競技に「みんなでゴロゴロ」というのがあった。四人五脚で途中マットで前転(往復なので2回)を行い、それをリレーする競技内容である。ほとんどのグループはマットの前で一旦止まってタイミングをはかるのであるが、そのグループは四人五脚での走りも速く、マットの前でも止まることなく、倒れこむように前転を決めた。その速さと言い、タイミングの一致具合と言い、実に見事で観客から一斉に歓声が沸きあがった。もちろん、マットからの立ち上がりもうまくいき、この瞬間に彼らは2位から1位へと踊り出た。

 私も高校のときの体育祭で同じような経験がある。その時は男女混合の三人四脚であった。実はこの競技にエントリーした覚えはなく、当日になって数合せでエントリーされているのを知らされた。実はそんな種目があることを知らなかったのだ。知っていたら、自らエントリーしていたことだろう。私は男性一人に両脇が女性という、男性にはラッキーパターンの組みになっていた。二人三脚であろうが三人四脚であろうが、2本の足を交互に出して進む限り、掛け声は「イチ、ニ。イチ、ニ」の繰り返しでしかない。いざ自分の番が来ると、両端からの思ったよりも小幅なストロークに転びそうになりながらも、約50メートルを一気に駆け抜けた。

 走っているときは夢中であったが、その日のホームルームで担任が我々の走りが観衆の歓声を得るほどの速さであったことを教えてくれた。男女混合の場合の問題点は歩幅が合わないことである。真ん中が男性の方が難しい気がする。逆の男性二人に真ん中が女性の場合は両脇からその女性が悲鳴とともに抱きかかえられ、股割き状態で運ばれていくことが多い。「なぶる」という漢字を思い出した。嬲る。