第279話 ■オブッチャン

 予定通りと言うべきか、衆議院が解散した。しかしこの予定と言うのは、森総理によって決定されたに過ぎない。小渕前総理が健在であったとすれば、おそらくサミットの終了まで解散はなかったことだろう。それが小渕氏の入院となった途端に6月25日投票に向けた解散が早速決まってしまった。奇しくもこの投票日は小渕氏の誕生日だというところからすると、この時点で「弔い合戦」や同情票を狙っていたと勘繰るのも自然な発想と言えるだろう。記憶をたどると、一匹目のドジョウ、大平総理の死去とそのときの総選挙からもう20年も経つ。

 さて、解散が予定通りか否かは別として、選挙の争点はここに来てにわかに変化した。野党は「神の国」や「国体」発言による森総理の資質を問題にしている。確かにこの点において総理の支持率は大きく急落した。それに対し、自民党は「サミットの成功と景気回復への選挙」を掲げている。しかし、本当の選挙の争点はそんなことではない。まず第1は、自民・公明・保守の三党による連立政権の是非を問うことである。そして2点目は、今のような、ばらまき型の財政投資に依存し過ぎた、景気回復策の是非を問うことである。これほど大幅な財政投資を行っても、景気好転への兆しが見えない。それどころか財政再建を棚上げにし、大幅な赤字を後世に残すに至った。これらが今回の選挙の本当の争点だと思う。しかし、このような争点があるにも関わらず、揚げ足とりに終始し、積極的な政策提示をしていない野党にも困ったものだ。

 小渕氏の死去により、群馬5区では彼の次女が立候補を表明している。その会見の際に彼女は「尊敬する政治家は父親で、彼の政治的意志を継承する」旨述べていた。困ったものだ。死者に鞭打つことはタブーとされる風潮があるが、彼が公人であったことを理由に敢えて言わせてもらおう。具体的な数字がなくて心苦しいが、彼が総理任期中に発行した国債の額はまさに前代未聞で、「世界一の借金王」とも揶揄された。しかし、それでも景気は遅々として回復の兆しが見えない。「我亡き後に洪水は来れ」。その通り、小渕氏は亡くなってしまった。洪水はいつ来るのだろうか?。とりあえず投票には行こう。