第285話 ■探し物

 小学校にあがる前後のことだから、昭和40年代の後半の話になる。母親と買い物に出かけ、デパートの食堂で食事をするのが楽しみの一つであった。当時はデパートと思っていたが、今思えばスーパーというのが正しいような気がする。頼むメニューはお子様ランチと決まっていた。当時の値段は300円ぐらいであっただろうか。成長するにつれ、いざそれが食べられなくなってしまうと残念であるが、ここ数年は子供のおこぼれをいただいている。

 さて、私が探しているのはお子様ランチでもその皿でもない。オーダーしてランチが届くまでの間お世話になった、ピーナッツの自動販売機である。自動販売機というのは大袈裟なので豆売り機という呼び名の方が良いかもしれない。その機械は高さ約40センチ。円筒形で、ロケットみたいな形状をしている。上半分がガラス張りで、中のバターピーナッツが見えるようになっている。下半分がメカの部分で、金属が赤くペイントされている。機械のてっぺんも同様に金属で赤い。そしててっぺんの真ん中は窪んでいて、ピーナッツを入れるための紙の皿が積まれている。紙の皿と言っても、ハイキングやバーベキューで使用するあれではなく、高級なチョコレートによくある、各部屋に仕切られたチョコの一つ一つに付いてくる。ひだひだのあれである。もしこれが、紙ではなくアルミホイルなら、お弁当に蜜柑(缶詰もの)を入れるときの皿になる。機械はテーブルの奥の方にクランプで固定されていた。

 まずてっぺんの紙皿を一枚取って、ピーナッツが出ている口の下にセットする。10円玉を機械に入れて、レバーを横方向に約90度動かして戻せば、適量のピーナッツがバラバラと機械からこぼれ落ちてくる。20粒ぐらいだったろうか。これをちびちび食べながらランチが届くのを待っていた。この機械が欲しいのだ。カラオケ装置などを扱っている、ゲームメーカーのタイトーが昭和28年からこの機械を販売していた(と言っても業務用だろう)ことが分かったが、肝心の現物の入手に関わる情報は得られていない。万一、現物が出てきたにしても、たまった10円玉を取り出したり、ピーナッツを補充するためには鍵が必要なはずである。もし鍵がないとすると、その機械を抱きかかえて、「鍵の110番」に駆け込み、合い鍵を作ってもらわねばならない。実はこっちの方がお金が掛かってしまうかもしれない。けど、パソコンの横に固定して、ちびちびピーナッツを食べながら、コラムの書ける日を夢見ている。