第3話 ■宇多田ヒカル

 歌番組不調の時代はどこに行ったのだろう。音楽業界は不況知らず。いつのまにかテレビの歌番組もずいぶん増えた。ただ以前と違うのは出演者が素のキャラクターを出して司会者とやり取りしてる部分をウリにした番組が増えたことだ。そんな中で異色なのは「速報!歌の大辞テン」という番組である。この番組は良くない。腹が立つ。「テン」が「ベストテン」にかけているセンス自体、ペケだ。また、この番組には歌のゲストが出てこない。何年か前のランキングを今のランキングとあわせて紹介する趣向であるが、昔のランキングでは当時のVTRを、今のランキングではプロモーションビデオを流す、体たらくぶりである。これではレコードをかけてランキング番組を作っている田舎のラジオ番組とほとんど変わりがない。そして、この番組に出ているゲストもコメンテーターでしかない。思い出話を語ったりしている。それと何よりも許せないのは司会の徳光がうんちくを語ることだ。「この宇多田ヒカルさんのおかあさんは藤圭子さんです」なんてね。「お前、自分で調べたのか!。そんなもん誰だって知っとるわい!」

 そうそう、今回のテーマは宇多田ヒカルである。何かというと彼女は母親のことを話題にされるが、そのことを私はとても残念に思う。なぜなら、彼女を語るにはそれ以上に作品の良さを語るにもっともっとエネルギーを使うべきだからである。特に作詞の点で素晴らしい。曲の方はアレンジに助けられている部分が結構多い気がする。けど、全体としてやはり素晴らしい。16才だからとか藤圭子の娘というものがなくても十分に商品価値がある。きっと曲をよく聞いたことがない親父たちが「藤圭子の娘」と言っているのだろう。それに対し、今彼女を支持する同年代の連中は「藤圭子?、誰それ?」という感覚なのだから。文芸賞が発表されるたびにその作品ではなく、受賞者のプロフィールの部分がクローズアップされるのとよく似ている。その一方で、前川清の息子というのがどんなもんか気になる。存在するのかな?

※今回の最後の部分のオチが分かるには、かつて藤圭子と前川清が夫婦であった、という予備知識が必要だ。