第31話 ■松田優作

 日本テレビで「蘇える金狼」のドラマが香取慎吾の主演で放送されている。これは以前、松田優作主演で映画化されたことがある。映画を見たことがない人でもその事実ぐらいは知っているだろう。映画を見ずにドラマだけ見ている人に断っておくが、ドラマは原作とかなり違っている。宅間伸の悪役にも相当無理がある。それに対し、映画はかなり原作に忠実だった。映画と原作の方は冒頭に警官を襲い、拳銃を強奪するところから始まる。ドラマでは復讐という建前で行動を正当化する感じがあるが、本来は自らの欲望のために行動を起こしている。大藪春彦の作品はこうでないといけない。

 ところが、それ以上に松田優作というと、ジーパン刑事だと言う人がいるかもしれない。「太陽にほえろ」のジーパン刑事こと松田優作が「なんじゃ、こりゃー」と叫びながら、凶弾に倒れたことを知る人は多い。当時幼かった人でさえもこのことは知っている。それはそういった名場面シーンだけを集めた番組でしばしば取り上げられるからだ。フランダースの犬の最終回やクララが立って歩くシーン(ハイジ)も同様だ。ただ、このいずれも私の場合、自分の記憶の原体験としては存在していない。その当時その番組を見ていなかったのだ。再放送でもしかり。だからそのシーンは強烈に刷り込まれていても、ストーリーの前後や背景については全く分かっていない。この事は原体験がないにもかかわらず、知識として持っているものと変わらない。松田優作の「なんじゃ、こりゃー」は「イイクニ作ろう鎌倉幕府」と私の頭の中では同じレベルの知識の一部でしかない。やはり優作は映画だろう。ドラマの「探偵物語」は許すけど。