第312話 ■「こころ」を読む(2)

 第三部は先生から私あてに手紙が届き、それを読み進む形で話が進む。この三部では先生が「私」という一人称で語られ、話が展開される。そこで、これまで先生が私に話していなかった学生時代の話が出て来る。Kを下宿に呼んで一緒に暮らすようになったいきさつ(Kは当時、情緒不安定な状態であった)、そしてKの気持ちを知りながら、お嬢さんとの婚約を決めたことなどが書かれている。先生は婚約のことを自分の口からはKに伝えられず、Kはこの事実をおかみさんから聞かされた。

 そして最後のくだりで、「この手紙をあなたが読む頃には、私はもうこの世にはいない」由の言葉が記されていた。結果先生も自殺してしまう。この理由に第二部での乃木大将の殉死が大きく影響している。本当はKの自殺により、先生は「いつ死のうか、いつ死のうか」と思っていたが、勇気がなく生き長らえていた。しかし、乃木将軍の殉死を知って、生き長らえていたことに恥じたか、心の区切りができ、先生も自ら死を選んでしまった。この第三部のタイトルは「先生と遺書」である。ここまでが「こころ」の要約である。

 さて、読書感想文の書き方であるが、私はK(の自殺)をめぐる、その時点での先生の心情を考察するよりも、第二部からのつながりで、先生が自殺を選んだ心情についてまとめるのが良いと思う。一見不要に思えた第二部が伏線として生きていることを読み取った事がこれにより採点者に伝わる。それと、この話の主人公は先生である。最初に私として登場してくる人物は普通であれば主人公として描かれるであろうが、結局のところ、彼はストーリーテーラー(物語の語り手)にすぎない。このあたりの設定の妙について触れるもの採点者に対しては好印象だと思うのだが。とりあえず、第三部だけでも読めば本稿を元に感想文が書けると思う。

 

おことわり:

 本稿(前話も含む)は執筆の時点で原作を調べて書いているわけでないため、一部では私の記憶により再構成して記述しています。このため、ニュアンスにおいて大異はないものの、具体的な表現は原作の通りではありません。