第319話 ■思えば遠くへ来たもんだ

 今日は(ちょっと)古い映画の話題を。スカパーで「思えば遠くへ来たもんだ」を放映していて、本稿を書きたくなった。主演は武田鉄矢である。この映画は’79年に撮影され、’80年に公開されている。ということは、時期的には金八先生の第1回シリーズの放送前後に撮影されたことになる。彼の役どころは高校の社会科(日本史)の教諭で、九州から秋田に赴任してきた新米教師という設定で、これまでも「現代版『坊っちゃん』」などと例えられている。

 話は春に武田が秋田の高校に赴任して来るところから始まる。今では武田鉄矢の教師姿として金八先生が不動のものとなっているが、このとき彼が演じた教師はまったくの正反対のキャラクターである。いわゆる、面白い武田鉄也の生の姿が垣間見える。お説教もしなければ、悩むこともない。そして、ことあるごとに生徒達をひっぱたく。きっと金八先生を演じるにあたって感じていたストレスの反動から、本来の地のキャラクターで演じていたかのようだ。

 この話のクライマックスは最後ではなく、始まって約1時間後(全体は約100分)に訪れる、あべ静江との会話シーンである。彼が顧問を引き受けた柔道部に家の手伝いが忙しく、学校に出て来れず留年した生徒、ホンジョウ(漢字不明、村田雄浩が演じている)がいた。「引き受けたからには強い柔道部にしたい」と武田は足繁く、彼の家を訪ねる。そこの姉をあべ静江が演じている。先生の熱心な姿にうたれ、次第に彼女は先生に惹かれていく。そして、2人がデートする日がやって来る。彼女は数日前に見合いをしたことを先生に打ち明ける。「先生、私どうしたらいいでしょうか?」。これが精一杯の彼女からの愛情表現の言葉である。「あなたはどう思うんですか?」。これに対して彼女は、結婚することで家族が経済的に助かること、弟を普通通り学校に通わすことができるようになることなどを挙げる。

 「そんなことじゃなくって、あなたの相手に対する気持ちがどうかって聞いているんです」。先生が答える。彼女は「悪い人ではないみたい」と答えるしかできない。本当は先生に止めて欲しくて、彼女はこんな話を切り出したにもかかわらず、「だったら、良いんじゃないかな」と先生は答えてしまう。おそらく先生にも彼女の気持ちは十分伝わっていたに違いない。しかし、それを止めさせるほど腹が決まっていたわけでない。何度見ても、何とも切なく、じれったく、胸がジーンと来るシーンであった。