第323話 ■客演

 岩倉具視という人をご存知だろうか?。公家出身で明治政府で活躍した人である。「岩倉遣欧使節団」という言葉を習ったような気がする。それとも、「500円札の人」というのが分かりやすいだろうが、何故彼がお札に載るほどの人物かを学校ではあまり詳しくは教えてくれない。お札の肖像は妙にけわしく、不機嫌な顔だったと記憶している。

 週末に芝居を見てきた。冒頭に出てきた、岩倉具視が出て来る。かと言って小難しい芝居ではない。いわゆる、コメディの新劇である。舞台は明治5年の横浜。木戸孝允や大久保利道も出て来る。現代劇であれば登場して来る人物の設定や相互の関係は話の中で読み取れば良いが、今回のような歴史劇ではそれぞれの設定は既にあるものとして、話が進んでしまう。脚本家はそのあたりの背景や考証まで十分に考えて本を書くであろうが、肝心の観客はそんな準備をしてまで芝居を見に来ているわけではない。前出の3名がこの当時それぞれどんな立場で絡んでいるか(ついでに板垣退助も出て来る)、正確に理解している人が世の中にどれほどいるだろうか?。また、そんな人ばかりがこの芝居を見に来るわけではない。話の善し悪しよりも、そもそもの設定が気になってしまった。

 今回見た劇団は初めてのところであった。いつもはひいきの「ラッパ屋」しか見ていないが、そこの役者が客演するとのDMが届いたので、暇に乗じて足を運んだ。客演とは自分が所属している劇団(劇団に所属していないフリーの役者もいる)とは別の劇団の公演にゲストとして出演することである。自分の劇団だけでは年に1、2度の公演しかないため、駆け出しのプロ役者の客演というのは結構多い。受入れる側も、ひいきのお客を連れてきてくれるだろう、との読みもある。まるでホームページの(相互)リンクのようなものだ。

 ついでに会場では他の劇団の公演チラシが配られる。これもお互いの助け合いというか、これまた相互リンクのようなものだ。芝居見物というのは私にも非日常的なイベントであるが、それらが客演やチラシでリンクしている。非日常のリンクというのはホームページのリンクとは比べものにならないほどのドキドキ感が潜んでいると思う。それが芝居小屋まで足を運ぶ、いくつかの理由の1つとなっているのは確かだ。