第375話 ■やらせの確率

 「今日の雑学+(プラス)」というメルマガのコラムに「超能力の確率」と題されたものがあった。以下、その内容をかいつまんで紹介すると、ユリ・ゲラーの超能力の番組の視聴率を20%と仮定する。すると880万世帯がこの番組を見ていることになる。視聴者それぞれの周りには腕時計や置き時計も含めて平均五台ぐらいは時計があるだろう。これで対象となる時計の数が4,400万台と仮定できる。さて、ここでユリ・ゲラーが「これからあなたの家の時計を止めます」と言って、パワーを送る。一方、司会者は「もし、あなたの家の時計が止まりましたら、こちらまでお電話下さい」とヒートアップさせる。

 先程算出した4,400万台の時計、全てが電池で動いているわけではなかろうが、大半は電池駆動であろう。よって、数年に一度は必ず止まってしまう。だから番組の放送時間である約2時間を電池の平均寿命で割り(もちろん、単位は揃えておかないといけない)、これに4,400万台を掛け合わせれば、ユリ・ゲラーの念力には関わりなく、番組の放送時間内に電池の寿命で自然と止まってしまう時計の台数がはじき出される。件のコラムではこの台数が、七千数百台と紹介されていた。視聴者はこんな数字のトリックなど予想していないため、本当に時計が止まってしまうと、その全員とまではいかなくても、この実験の成功に関与した意識からテレビ局に電話を掛けることだろう。

 テレビ局のスタジオでは電話が鳴りだし、自分のところの時計が止まらなかった視聴者もこの電話の状況に、ユリ・ゲラーの超能力を信じてしまう。かつて子供の頃の私だったら、間違いなくこのパターンに当てはまり、御丁寧にも翌日には学校で、「昨日のユリ・ゲラー見た?。凄かったぞ、時計止まっちゃって。いや、うちのじゃないけどね」と友達にユリ・ゲラー教を布教していたに違いない。しかし、今なら違う。確率的に自然と時計が止まってしまうこと以上に、「あの電話、やらせじゃないか?」と思えてしまう。スタジオでジャンジャン鳴っている電話に次々とオペレータが応じているが、本当に時計が止まったかどうかの確認のしようがない。いたずら電話もあるだろうし、掛けて来ているのがサクラかもしれない。もっと極端な話、オペレータは電話が掛かって来た振りをしているだけかもしれない。

 かつて、バラエティ番組(ものまね番組だったかな?)で視聴者のリクエストでランキングを決めるという趣向のものがあった。スタジオの後ろでは電話オペレータが盛んに電話を取っている。しかし、番組の中ではリクエストの電話番号なんか紹介してない。番組の途中で司会者が「皆さん、テレビ局に電話して来てもダメですよ。本当はリクエストなんか受け付けていませんから。あの人達は電話を取っている振りをしているだけですから」と、タネ明かしをしていた。その瞬間、オペレータ達は笑っていた。