第56話 ■ブックメーカー

 テレビの深夜番組の善し悪しは、その数年後のゴールデンタイムの番組に影響を与える。若手芸人にとってそれが登龍門だからである。そういう意味では不況の今は制作に金がつぎ込めないため苦渋の時期と言える。古い洋画や通販番組の多さからいくと斬新なゴールデンの番組というのにはしばらくお目に掛かれないかもしれない。しかし、あの通販番組、水商売帰りの人には好評らしい。

 そんな深夜とは言えないが、7、8年程前に「テレビブックメーカー」という番組があった。その名の通り、賭事の番組である。出演者を紹介しよう。まず、ディーラー役は前田武彦である。賭けを行うプレーヤーは毎週交代で3人ずつ出て来るが、秋元康、黒鉄ヒロシ、鴻上尚史、糸井重里、栗本慎一郎らである。彼らのいでたちはタキシードである。30分番組で問題は毎週2問出される。番組の冒頭は前回分の答え合わせと配当である。そして、その問題が結構どうでも良いようなものである。具体的には、「次回放送の大岡越前の判決は何か?」、「来日した2日間のうちにゴルバチョフ大統領(当時)は何本のネクタイを締めるか?」、「ドラマ○○の最終回の視聴率は幾つか?」、「○○百貨店でバレンタインチョコとして最も売れるブランドはどれか?」などである。

 その後に賭けのための参考データとして、それぞれのポジティブファクターとネガティブファクターのVTRが流される。賭けの対象とオッズの配分も面白い。大岡越前の場合だと、「張付け獄門 3倍」、「遠島 3倍」、「火あぶり 5倍」、「江戸所払い 7倍」、「お咎めなし 10倍」、「その他 15倍」といった感じである。VTRのところでは他局の番組でありながらも予告編が流され、登場人物の相関図が示されたりする。

 一度ディーラーが大負けして破産したことがある。プレーヤーも含め、出演者の中から何人かが立候補し、視聴者からの投票で新しいディーラー役を決めたりもした。結果は前武の再任だったが。なかなか面白い番組だったが、ある日突然番組が打ちきりになった。金のやり取りはないものの賭事をテレビでやることに警察当局からの横槍が入ったためだと思われる。非常に残念である。