第64話 ■小須田部長

 この7月に会社での組織異動があり、オフィスが別ビルに引っ越すことになった。そのため金曜日は荷作りなどで1日費やしてしまった。ビルも変わる引っ越しは3年振りである。引き出しから出て来た資料を懐かしむあまり、作業が遅々として進まない課長がいたり、同僚の引き出しからはランパブでお姉さんと撮った上司の酔っ払った顔の写真が出て来たりして、普段にはないテンションで作業が進められていく。

 本当はゴミなどのいらないものは前に出しておかなければならなかったが、いらないものがやはり次々と出て来てしょうがない。「いるもの」、「いらないもの」、そんな選別をしていたら小須田部長を思い出した。

 小須田部長とは内村光良がフジテレビの「笑う犬の生活」の中のコントで演じるキャラクターである。このコントはかつては本社の総務部長であった小須田部長が毎回次々に、しかも度を増して左遷されるストーリーのショートコントである。次の異動が決まり、荷作りしている部長を手伝いに来るかつての部下、ネプチューンの原田泰造との2人で演じられる。セットで2人の前には「いるもの」、「いらないもの」とそれぞれ書かれたダンボール箱が置いてある。「この携帯はいるよな」。「部長、いりません。電波が届きませんから」と言って、携帯を取り上げ、「いらない」の箱に原田が捨てる。部長は異動先を知らされていないので青ざめる。「この名刺はまたいつか使えるよね」。「部長、いりません。部長はもう、うちの会社の社員ではなく、現地法人の社員ですから」と名刺も捨てられてしまう。「このスーツはいるよね」。「いりません。寒いですからこれを着て下さい」と言って、防寒服とイヤーウォーマーを原田が取り出す。

 あるときはアラスカ方面、またあるときは南の島へと部長は転々とするが、未練があるらしく、携帯とスーツは捨てずに取っている。「まだこの携帯捨ててなかったんですか?」というのが最近は必ず入るようになっている。そして最後は今回の左遷の原因となった部長の失態が原田によって明かされ、部長が泣き崩れるところで終わる。「ガンバレー、負けーるな」。