第815話 ■住基ネット始まる

 懸案の住民基本台帳ネットワークがスタートした。マスコミも反対するぐらいなら、何故もっと早くから騒いでくれなかったのか困ったものだ。反対運動の中に人間を11桁の数値で表現することへの不快感など示したものがあるが、私としてはそんなことは大した問題ではない。文字通り、住民基本台帳がネットワークで結ばれる点が問題の中心である。数値化はあくまでも手段でしかなく、悪用する側が本当に欲しい情報はその数値に紐付けされている個人情報の方だ。数値はシステム上のキー、IDでしかない。ただ、システムの設計上、データが莫大であるため、それを効率化するために数値化したキーを設けるのは当然のこと。これまでも姓名や生年月日等で戸籍は管理されてきたわけで、数値表現などなくても住民基本台帳をネットワークで接続し、管理すること自体はできる。姓名や生年月日等から登録番号を逆引きする機能もシステムには備わっているだろうし。数値化の不快感や是非にこだわって、本質を見誤ってはいけない。

 「電脳山田村で接続障害」なるニュースを見た。富山県の山田村は村民にパソコンを無償貸与するなどのIT先進の電脳村らしいのだが、役場のコンピュータのハードディスクが前日から壊れた模様。過疎地だとコンピュータメーカーのサービス体制も手薄になってしまう。場所を選ばないはずのネットワークがこんな物理的な部分でつまづいてしまった。役所にとっては基幹業務のはずなのに、バックアップのためのシステムは用意されていないらしい。ITに対して先進的な自治体でさえこの有り様。所詮、住基ネットシステムなどその程度のものということだろう。パソコンを無償貸与したことで、IT先進の村、電脳村というのもちゃんちゃらおかしい。

 先月末頃の毎日新聞のニュースサイトに、四日市市役所の職員が個人情報の端末を自由に操作していたとの、記事が載っていた。本紙の記事を引用すると「市民の離婚歴や資産情報を一部職員が興味本位で見た」、「住民情報を担当した複数の職員、元職員の証言では、休憩時間などに職員の家族情報を呼び出して『あの子は独身』『あの人は障害者』などとうわさ話にした職場もあったという。事件が新聞に載ると、関連人物の情報を引き出した職員もいたが、上司は特に注意しなかったという」。こんな人々が住基ネットが導入されたからといって、正しくその運用にあたれるのか、非常に疑わしい。毎日新聞のサイトで「四日市」と入力すればその内容を見ることができるので、興味のある方はどうぞ。

 住基ネットの怖さは、自分の所だけしっかりしていれば良い、というわけでないことだ。自分の所だけきちんとしたセキュリティポリシーを持って、その運用に臨んでいても、一人でも不正を働こうとする職員が日本中のどこかにいれば、きちんと運用している役所のデータも盗まれてしまう。四日市市の例は氷山の一角に過ぎないだろう。セキュリティー強化のために地元の人々の税金をつぎ込みながら、よそ者にやられてしまってはたまったものではない。興味本位で芸能人の住所などが暴かれ、リストとして流通する可能性は極めて高い。

 そのうちきっと、「基本台帳登録番号占い」なんてのも登場するかもしれない。Webサイトでそれぞれの登録番号を入力するとおもしろい診断結果が出てくるかもしれないけど、実はこれで登録番号情報と個人情報を収集していたりするかも。姓名判断のように安易な気持ちではくれぐれも利用しないように。

(秀)