第90話 ■藤田

 8月24日。宵のうちから激しい雷となった。先に会社を後にした同僚から携帯で、「山手線が止まった」との連絡が入った。ブラインドを上げ、外を見た瞬間、「ピカッ!」と閃光があり、「ゴロゴロ」という音も聞こえた。かと言ってしばらく会社で時間を潰したところでおさまる気配も無いため、会社を出る事にした。進行方向の遥か先、品川の方で盛んに光っている。そして、地下鉄の駅にたどり着いた途端にこれまでにないほどの大きな音とともに地響きがした。「さっきのはでかかったぞ」と思いながら、けどこれってどう表現すればいいのかという疑問が生じた。「雷の単位ってあったけ」。

 自然界に数多ある気象現象には単位が存在すると相場が決まっている。雨量も風速も気圧も、地震にだってある。日本ではあまり馴染みがないが、本場アメリカでは竜巻の強さにもちゃんと単位があるのだ。表記は「F」と書く。研究者のイニシャルから来ている。その名は「藤田」。しかも「テツヤ(字は不明)」だったと思う。意外なことに日本人である。強さに応じて、1~5までの数字が与えられる。「1藤田」、「2藤田」というわけだ。地震の単位(震度)に似ており、家が壊れる程度ならいくつ、牛が飛ぶとき(アメリカらしい)はいくつ、車も飛ぶ時はいくつと決められている。各単位毎の竜巻の持つエネルギーも示されている。

 さて、雷の話に戻るが、問題の雷の単位は存在するのだろうか?。仮に単位が存在するとしても当事者間で共通のものさしがない状態では会話にならないのは確かである。詳しくは今度調べてみるとして、今日のところは「高木ブー」という単位にしておこう。駅にたどり着いた時の落雷は「3高木ブー」程度か。表記上は「3B」。これなら雷も恐くないね。