実にけしからん話であるが、その怒りや矛先がねじれてきてしまって、NHK会長の辞任問題だけがクローズアップされている。そもそもの問題の原因は元チーフプロデューサーによる制作費の着服である。外注に仕事を出して、その見返りとしてリベートを私的に貰い受ける話はドラマや小説でも目にする。はっきりとした金銭でなくても謝礼という名の贈り物であったりと、何らかの見返りが授受されていることはまま日常的に起きているだろう。悪質なものになるとリベート分を上乗せして、お互い了解の上、発注するケースもあろう。
今回のNHKの場合はこれが架空の発注であったことと、制作費が国民からの受信料や国庫からの負担金で賄われていたことで問題となった。まさに偽装による公金横領である。このため、元チーフプロデューサーは詐欺罪で逮捕起訴されている。上司が管理監督上の責任を負うのは当然のことだが、それにより組織の最高責任者がその地位を追われるというのは行き過ぎの気がする。
不正事件により、受信料の不払いが増加している。その気持ちよく分かる。一般の民間企業で言えば、不買運動といったところだろう。だったらNHKのテレビの視聴やラジオの聴取を止めてまで意思表示をするべきだ。NHK会長が辞める、辞めないというのは、プロデューサーの不正の監督責任ではなく、もはや受信料不払いの責任にすりかわってしまっている。それと、会長の不遜さに対する他のメディアからのバッシングによる引き下ろし熱。
そもそも今回のNHK受信料の不払いは受信料システムに対する人々の不満が鬱積していたことの表れだと思う。何らかの文句を付けて、できることなら払いたくないと多くの人が思っているところに不正事件が明らかになったのだ。一時的な懲罰的な意味で不払いを実行している人も確かにいるだろうが、たとえ会長が辞めたからといって、途端に受信料の支払いが元の状態に戻るとは思えない。
払わないからといって何らかのペナルティがあるわけでなく、NHKも不足分は国庫から援助を受けられるとあって、どこまで本気なのかと疑わしい受信料のシステム。料金を払わなくても通れる高速道路があって、公団の赤字を国庫で負担すると仮定すれば、誰だって金を払う気にならないだろう。まさにこんな状態だ。受信料で運営していくシステム自体が疲弊してしまっていると思う。もはや、辞任とか不払いという話で解決できそうにないところまで事態は進んでいる。
もちろん、それとは別に悪い人はそれぞれその罪を償わねばならない。
(秀)