直木賞作家、奥田英朗氏の短編小説「イン・ザ・プール」が最近文庫本になった。ちなみに氏の直木賞受賞作品「空中ブランコ」はこの「イン・ザ・プール」の続編だ。ともに主人公は総合病院に勤める精神科医、伊良部一郎である。伊良部総合病院という名前と一郎という名前からして彼はその病院の跡取であるようだが、薄暗い地下一階の神経科に押し込められている。色白で太った中年、眼鏡を掛けている。自称35歳だが、実年齢は書かれていない。しかし見かけは45歳。ロリコンでマザコンで注射フェチ。子供がそのまま大人になったような性格。患者が来ると甲高い「いらっしゃーい」という声を出す。愛車は黄緑色のポルシェ。離婚歴あり。
伊良部総合病院の神経科には色々な患者が現れる。プール依存症(これが原題にもなっている)、勃起しっぱなしの陰茎強直症、ストーカーを恐れる妄想癖、携帯電話依存症、強迫性神経症。必ず毎回注射は打つけれど、いずれに対してもまともな診療などは行わない。そして、患者の誰よりも伊良部一郎の変人振りが上回っている。ただ話を真剣に聞いて、嬉々として一緒に同じことをやってみたりする。一緒にプールに通ったり、意味もないメールを送りつけたり。サーカスの団員の患者の際には空中ブランコに挑戦した。そして最終的には治癒させてしまう。
「イン・ザ・プール」は同名の映画が作られ、つい最近これをDVDで見た。主演は松尾スズキ。私にはこれがミスキャストに思える。やはり原作に忠実に色白で太っていて、眼鏡を掛けた人であって欲しかった。具体的に誰が良いかは思い浮かばないけど。私は原作を先に読んでいたため、映像では説明されていない部分まで分かって話を吸収できるが、それがないと伊良部一郎の変人ぶりは映像だけでは不十分だったと思う。ただ松尾スズキが変な人というだけになってしまう。確かに笑えるけど、映画よりも原作を読んだ方が面白いと私は思う。おすすめ。
(秀)