コラムのデパート 秀コラム

第1642話 ■鈴木大地がやってきた

 保護者席に座っている私の前を、その見覚えのある男性は来賓として通り過ぎて行った。一瞬の後、「鈴木大地だよな?!」と思った。長女の高校での卒業式でのことである。卒業証書授与の後の学校長式辞で、彼がやはり鈴木大地であることが明らかにされた。順天堂大学准教授ならびにソウルオリンピック100メートル背泳ぎ金メダリスト、というのが今の彼の肩書きである。

 来賓祝辞で、彼は県教育委員会からの役人に続いて登壇した。約5分間のメッセージだったが、ちょっとオドオドした雰囲気だった。それにしても、何故彼がこの高校の来賓としてやってきているのかが分からない。祝辞の中に出てきたが、彼は同県の出身であったが、別の市の高校の卒業生だった。そして彼は自分の高校時代のときの話をした。

 勉強はできなかったが、学校の先生からは「君は勉強はいいから、水泳をがんばってオリンピックに行け」と激励されていたらしい。そして見事に数年後にオリンピック出場して、金メダルを獲得した。彼の出身高校は公立高校ながら、スポーツにも積極的な高校として有名な学校だった。

 卒業式の後の保護者会で校長が鈴木大地を呼んだいきさつを話してくれた。校長が学校の文集に、世界の頂点を極めた金メダリストでもそれまでにはいろいろと挫折を味わったことを書いていて、そのことを本人の口から生徒達に語ってもらおうと彼を呼ぶことにしたらしい。特に知人や伝手があるというわけではなく、呼ぶためにいくらかの金を使ったとの事だった。しかも本人が一人でやってくるわけではなく、秘書なのか付き人なのか、もう一人付いて来たため、その人の分の費用も掛かっているとの事だった。

 鈴木大地の登場は生徒よりも保護者の方にインパクトがあった。私も彼のスピーチをビデオカメラに収めた。それに引き換え、卒業生の反応は今いちだった。何しろ卒業生が生まれたのはソウルオリンピックの2年後のこと。生まれる前の話をされても、さすがにピンと来ない。意外にももうそんなに時間が経ってしまっていたことを、子どもの成長で改めて実感させられる出来事だった。

(秀)

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