「自炊って知ってますか?」と周りの数人に聞いてみたところ、「自分でご飯を炊くこと」と皆が答えた。我がコラムの読者であれば、既に理解いただいているかと思うが、ここで言う「自炊」とは、本や雑誌をスキャナーで読み込み、電子ファイル化することである。せっかく買ったiPadを活用しようと、断裁機とスキャナーを買い込んで、自炊環境を整えてから約2週間。冷静に考えてみれば、今回の自炊キットの購入額はiPad本体よりもかなり高かった。ちまちまと自炊した本の冊数は105冊に達した。これは私が1年間に読む本の冊数を大幅に上回っている。
まずは自炊の対象となる本を決める。最初は成り行きで少量の単位で断裁してスキャニングしていたが、これでは効率が良くない。実際に本を手にとって、この本を自炊すべきかどうかを都度考えるのは面倒である。別に処理にお金が掛かるわけではないので、予めルールを決めて処理する本を決めてしまった方が良い。まず、中古で買った本を第一優先にし、買ったけど読む目処が立っていない本が続く。中古本である程度の価値があるものやコレクションの類のものは外す。どうせ中古本屋に持って行っても10円程度にしかならない本は、特にためらうことなく断裁できる。
断裁機は思ったとおり、スパッと切れる。まず、巻きカバーをはずし、表紙、見返しまでを手で破り取る。見栄えから言えば、巻きカバーをファイルの先頭ページにした方が、アプリで書棚に並べたファイルを眺めるのには良いのだろうが、巻きカバーと背表紙部分を断裁した本身では横幅が合わない。それと巻きカバーを裁断するのは結構手間であるため、本の中扉の部分をファイルの先頭ページとすることにして、巻きカバーは捨てることにした。本身を断裁機にセットし、一刀両断、レバーを押し下げる。慣れてくれば、1時間もあれば、100冊分断裁がイケそうな気がする。
問題はスキャニングである。私が購入したスキャナーは毎分25枚の用紙を読み込むが、同時に用紙の両面をスキャニングするため、毎分50ページの取り込みが可能な機械だ。一度にスキャナーにセットできる用紙の枚数は紙の厚さにもよるが、30枚から50枚くらいの感じまで対応できる。無理に枚数を増やすと、紙が吸い込まれていかない。気になっていた重送は思ったよりも極めて少なく、その原因はうまく裁断できていないものばかりだった。中扉と本身の用紙の糊付け部分の糊が残っていた。200ページの本を読み込むのに約4分。そのデータをOCR処理し、透明テキスト付きのPDFファイルとして書き出すのに2~3分、といった感じだ。結構地味な作業だが、テレビや録画した番組を見ながら作業できるので、週末に集中して作業するのが良いかもしれない。
実際のスキャニングのトラブルとして多かったのは、栞を挟み込んだままで断裁し、気づかずにスキャニングしたために、最初からスキャニングをやり直した事が何度かあった。それに斜行と用紙サイズの自動判断ミスが用紙のページ数の比率で言えば1%以下であるが、それが見つかればその本は最初からスキャニングのやり直しとなる。また、それを作業中に気が付けば良いが、作業が終わって断裁した本を捨てた後に気づいたのではもう諦めるしかない。今回100冊以上の本を結果として物理的には捨てたわけだが、本棚に空きができた感じはあまりしていない。
iPadで自炊したファイルを開いたところ、思ったよりも文字が綺麗でなかった。かすれなどが出ている。スキャニングの解像度が不足したのかと思って文字の表示を拡大したところ、文字はなめらかな形でかすれもなく表示された。iPad側の画面解像度(画素数)がPDFファイルの解像度を表現するには不足しているものと思われる。PDFファイルとなると、これまではパソコンの画面で読むよりも印刷して読むことが多かったが、ようやくここにきて電子ファイルとして閲覧することに抵抗がなくなった感じがする。やはり、縦長でページが表示されるのが、ページ内でのスクロールを必要とせず心地良い。
iPadというデバイスの登場により、注目度は上がっているものの、電子書籍の実態は圧倒的なコンテンツ不足である。貪欲にPDFファイルをかき集めてみたりもしたが、いっそのことなら、買ったもののまだ読んでいない本を電子ファイル化したいと考える。その結果の自炊である。実際にiPadに保存して、持ち歩いてみると、読み始めると本とあまり違いがないが、読み始めるまでの挙動は本の方がやはり早い。読むスピードについて、実際に計測してみたわけではないが、本と電子ではほとんど差がないような感じだ。それよりも、冊数が多いため、どれを読もうか迷ってしまったり、読みかけの状態の本が増えてしまうことになった。
iPadは電子書籍以外にもいろいろな用途があるから面白いデバイスではあるが、本を読むだけならもっとコンパクトなデバイスの方が良さそうだ。というわけで、今月末に発売されるKindleの新型端末を予約注文した。
(秀)