アマゾンキンドルの読み放題メニューが始まって、そろそろ1ヶ月になるが、新聞報道で見る限り、早くも問題が起きているようだ。スタート当初あった人気の漫画や写真集が読み放題の対象書籍から外された、ということだ。消費者側からの苦情かと思ったら、権利を保有する出版社サイドから苦情が上がっている。
出版社あるいは著作権者には、貸出の実数に応じてライセンス料が支払われる仕組みとなっている。読み放題メニュー全体の売上から予め想定していたライセンス料にあたる部分の全体を分配する方式だが、その比率や金額等は明らかになっていない。しかも今年中は規定の契約金額よりも割増でライセンス料を支払うということで、出版社への協力を求めていたようだ。
そこで実際にフタを開けてみると、人気の漫画や写真集に利用が集中し、ライセンス料の支払いを圧迫しているという事情らしい。ライセンス料の収入を見込んでいた出版社にとってはたまったものではない。アマゾンの言い分としては、「契約違反ではない」ということだが、納得いかない出版社の一部はそれ以外の本も含めて、引き揚げを考えているらしい。
とりあえずここまでは新聞報道をなぞっただけ。契約内容が明らかでない状態で、いずれの言い分が正しいのかを判断するつもりもない。ただ、出版社側に言ってやりたい。それは、「金を出してまで読みたい本ではないってことだよ」って。一般的にモノの値段は需要と供給の関係決まる、なんてことを言われているが、再販価格で守られている本の場合は違う。紙代や印刷代、配送費諸々、これに出版社や販売者の利益、著作権者・出演者の利益が加味されて、値段は決定される。同じ本を大量に作れば作るほど、全体的なコストが安くなる特殊な事情もある。また一方で、「売れなかった」と言って値段を下げることはできない。売れ残りは回収し(これが原価高の要因の一つにもなっている)、断裁し、廃棄する。
例えば新聞は、あの新聞紙自体が欲しいわけでなく、中身の情報が欲しくって、人々は紙代や配送費、諸々を含めて代金を支払っている。情報料よりも周りのコストが高いのも止むを得ず、そうするしかなかった。同様に本もほぼ同じだと思うが、写真集や漫画本にはその本を所有するという、購入動機が存在する。だから、いくら電子出版が普及しようとも、紙のスタイルがなくなることはない。写真集は紙質などを考えると売価が高いのも含んでの値付けだったと思う。しかし、それが電子媒体になって、見るだけになってしまうと、それらの値付けの根拠はなくなる。
要は、「金を出してまで読みたい本ではない」ってことだ。出版社はそのことに対する自省をまず行うべきだ。理髪店や喫茶店でペラペラとページをめくっておしまい、というのと同程度の価値しか認められていない、というわけだ。電子書籍の値付けを考える際に、紙の本の値段を基準にするのだろうが、そもそもその基準となる値付けが正しかったのかを考え直すべきだろう。そして、電子書籍では諸々の費用がなくなって原価が安くなることを考え、新たな利益をそっくり消費者に還元せよと言うつもりはないが、権利者の利益拡大など、有効に活用して欲しい。
ただ、値付けの見直しだけを提言したいわけではない。適正価格であることは前提で、そもそも金を出してでも読みたい本を作るべきだということを改めて彼らに言いたい。
(秀)