【前話からのつづき】
私が制作サイドの説得を拒否し、オーディションのやり直しを命じたのは、それまでの何度かのビデオ制作で、制作プロダクションに任せっきりのために、不満を感じたことがあったことによる。撮影当日に現れたモト冬木みたいなディレクターはリハーサルも台詞を間違えなければOK、本番でも即OKを出してしまう。何度もNGが出たり、何度も撮り直して最も良いものを使うのかと思っていたのとは大きく異なった。こんな感じで、満足のいくものなどできるはずない。
よって、今回は制作プロダクションを変えた。出演者も写真選考だけでなく、実際にオーディションで選ぶし、オーディション中はビデオを回すことにした。喋りが必要な役の場合には、やっぱり喋らせてみなくて分からないし、迷った際にはビデオを何度も見返すのが結構有効である。そして何より、オーディションやり直しの最大の理由は、「もう一度会ってみたい」と思う人がいなかったからである。これには理由などない、ただ、これまでの経験で「また会いたい」と思わなかった人との仕事はうまくいったためしがない。
オーディションではディレクターやプロデューサーがいろいろと質問してくれるので、クライアントとして質問することなんか、「我が社はどんなイメージの会社ですか?」ぐらいしかない。こんなことの受け応えが選考に影響するはずはなく、最初の2、3人に聞いて、やめてしまった。退屈になった反面、ただ一心に「もう一度会いたい」と思えるような人の登場を待つのみ。