自分の余命が長くないと気がついてからというもの、父は一刻も早く病院を退院することだけを願い、最後の頼みをきくような形で、私たち家族もそれに同意するしかなかった。
「明日、暇か?。秋葉原に行きたいんで、車を出して欲しいんだが」
結局これが彼にとってはこれが最後の外出になった。
小さいときにずいぶん父に連れて来られたこの街も、常磐新線が通り、第二東京タワーが完成した頃からその姿を大きく変えてしまった。それに世間の多くの人がほとんどの買い物を通販で済ませてしまうようになってからというもの、大きな家電ショップもネットの中にその店を移し、秋葉原も以前のような電気の街という様相ではない。それでもパソコンなどのパーツを手にとって買うにはやはりこの街は欠かせない。
そんな秋葉原の街で次々に店を梯子し、せわしくパソコンのパーツを買い集める父の姿は昔の彼の姿を見ているかのように、とても生き生きとしていた。
それからしばらく、そのパソコン作りに父は没頭し、ほどなく完成したのであるが、皮肉にもそのパソコンを使用することなどなく、彼は帰らぬ人となってしまった。
そして今日は初七日を迎えた。
「久山さん、書留です」
玄関で声がする。郵便配達が1つの封筒を私に手渡した。
私に宛てられていたその封筒の差出人は「久山明人」。それは父の名だ。
座敷に戻り、その手紙のことを話すと、家族も親戚も誰もが驚き、そして気味悪がった。いたずらや嫌がらせかとも疑う者も。早速、封を開ける。そこにはやはり間違いなく、父の字が並んでいた。
– – この話はフィクションです。- –
(秀)