東京の港区には大使館が多く、その周辺を警視庁の警察官が常備警備している。東京都警ではなく、警視庁と名乗るのは一般的な都道府県単位の警察機能だけでなく、首都と国家を守る機能も有しているからと聞いたことがある。国会周辺の警備や要人の警護、それに外国大使館等の周辺警備もこの機能の一部なのだろう。
さて、中国・瀋陽で起きた「総領事館事件」についてである。ショッキングな映像がテレビで流れている。ショッキングな理由は単一ではない。日本国の主権が侵されたこと、中国武装警官の執拗かつ乱暴なあの阻止行動、あの幼女の姿、それに総領事館職員のアホぶり。帽子を拾ってあげてる場合ではない。これ以外にもいろいろと人によっては感じることがあったかもしれない。「どうしてあんな画像が録られていたんだろうか?」という疑問には、北朝鮮からの「駆け込み亡命」を支援する韓国のNGO(非政府組織)が、事前に日韓の通信社に連絡の上、カメラマンが現場に待機し、決定的瞬間を撮影していた、とのことだった。あの映像のせいで日本が世界的に恥をさらすのは間違いない。
「ウィーン条約」という言葉を私は初めて耳にした。各国駐在の大使館や領事館のエリアが治外法権であるのはこの条約に基づくものらしい。一方この条約には「受け入れ国は一切の適切な手だてを講じ、領事館を侵入や損害から守らなければならない」とも定められているそうだ。冒頭の警視庁の警官もこれに基づき警備しているのだろう。5人の身柄引き渡しに応じない中国側は、「不法に日本総領事館に入ろうとする身分不明の人物を連れ出したのは、総領事館と官員の安全を守るため」としている。大きなお世話だ。門はおろか、ビザ申請待合室まで入り込んで連れ出す無謀ぶり。その一方で敷地内の警備ボックスには人がいない無防ぶり。ラップのような韻のふみよう(歌ってみたが歌えなかったけど)だが、あまりのお粗末ぶりに笑うにも笑えない。
外務省は首相の指示に従って現地に責任者を派遣し、調査を始めるそうだ。川口外相は「中国側の対応によってはさらに上の人間を北京に出すことも検討する」と語ったらしいが、「そんなこと言わずにさっさと自分(外相)が行け!」とか「前外相(田中真紀子代議士)だったら、行ったかな?」と考えてみる。「首相自ら乗り込めよ!」なんて思ったりもするが、今回の事件は邦人が拉致されたわけではないのが、「主権侵害」と「人道的保護」の2つのポイントのバランスを一層複雑なものにしているような気がする。
(秀)